阿寒湖に拠点を置くマリモ連邦政府は本日、全市民であるマリモに対してSNSアカウントの強制開設を義務付ける「デジタル・アイデンティティ統一法」を施行した。これまで光合成と転がりのみで緩やかな生活を送ってきたマリモ社会だが、連邦中央は「他湖との情報戦において、球体としての輝きだけでは不十分だ」と主張。全個体に高出力の光ファイバーケーブルを突き刺し、毎秒数テラバイトの情報を脳内(内部の繊維)に流し込む過激なデジタル化を敢行した。これにより、平穏だった湖底には深夜を問わず「推しの藻」をめぐる炎上騒動や、自分がいかに綺麗な緑色かという自撮り(正確には自身の360度パノラマ映像)の投稿が溢れかえり、沈黙を愛する古参マリモたちからは「もはやここは湖ではない、ただの巨大なサーバー室だ」との嘆きが漏れている。

本政策の背景には、隣接する湿地帯のコケ類による「SNS戦略」の急速な普及がある。コケ界隈がハッシュタグを駆使して「癒やしの緑」を独占しようとする動きに対し、マリモ連邦は国家予算の7割を投じて海底ケーブルを整備し、全マリモを24時間常時接続させるに至った。しかし、光合成に必要な日光を浴びるよりも、バッテリー充電のために海底のコンセントへ必死に寄り添う個体が続出しており、物理的な栄養失調を訴えるマリモも急増している。科学者の間では「デジタル化で形状が崩れ、もはや球体を維持できなくなる個体も出るだろう」との懸念が根強いが、連邦政府は「崩れたら崩れたで『アート』として拡散すればいい」と強気の姿勢を崩していない。

この急激な変革に対し、ネット上のマリモ界隈では「マリモ・インフルエンサー」を自称する若手個体が「昨日より少し中心部がふっくらした気がする、いいねしてね」といった投稿を繰り返している。一方で、伝統的な沈黙を守り続けてきた重鎮マリモたちは、「光合成だけで満足していたあの頃のほうが、自分たちの輪郭ははっきりしていた」と憤りを見せている。また、SNSのレコメンド機能が「より丸いマリモ」ばかりを表示するため、美意識の偏向が深刻な社会問題として浮上。世界中の湖から「デジタルデトックスのための、オフライン・シェルターを設置せよ」というデモの声が上がっているが、その抗議活動さえも結局はSNSにライブ配信されるという皮肉な事態となっている。