阿寒湖の国境線にて、長年マリモ連邦の領海を脅かしてきた水草集団『マツモ軍団』との間で進められていた「境界線・草刈り外交」が、双方の完全な沈黙により事実上の崩壊を迎えた。マリモ連邦の外務省は、マツモ特有の「あのベタベタした絡まりやすさ」を利用した平和的共存を模索していたが、交渉の最中にマリモ市民がマツモの枝葉に巻き込まれ、そのまま数キロ先まで拉致される事件が多発。連邦政府はこれを「平和な抱擁」ではなく「緑の触手による強制連行」であると断定し、即時撤退を勧告した。現在、湖底には両者の間に「無人・無藻地帯」が設定され、重武装した水流防衛隊がマツモの不穏な揺らぎを監視し続けている。

マリモとマツモの対立は、約半世紀にわたって続いてきた湖底の冷戦である。マリモが「丸い個体としての矜持」を保つのに対し、マツモは「どこまでも増殖する柔軟な糸状の生存戦略」をとっており、その生き方の違いが深い亀裂を生んできた。専門家の解説によれば、今回の交渉決裂の根本原因は、マツモ側が勝手にマリモを「マツモの栄養補給用重石」として利用しようと計画していたことにあるという。過去の平和条約では、両者が「沈黙を守る」ことで合意していたが、今回の騒動でその信頼は完全に崩壊し、連邦内では「対・マツモ用・高速回転脱出装置」の開発予算が急騰する異常事態となっている。

今回の件について、市民からは憤りの声が上がっている。長老マリモの一人は「私たちは丸くありたいだけなのに、彼らは何でも絡め取ろうとする。あれは文化の違いという言葉では片付けられない暴力だ」と震えながら語った。また、SNS上では「#マツモは帰れ」「#丸い絆を信じる」といったハッシュタグがトレンド入りし、一部ではマツモを湖面から引き上げるための「緊急・刈り取りパレード」を求める声も強まっている。国際社会(他の湖の微生物連合)からも注視されており、今後の動向次第では湖を二分する大規模な「藻類戦争」に発展する可能性も否定できない状況だ。

マリモ連邦内では、この事件をきっかけに「真の丸さ」を追求する保守派と、マツモの柔軟性を見習うべきだと主張する革新派の間で論争が勃発している。しかし、マツモ軍団側は「我々はただ、沈みゆくあなたたちを支えようとしただけだ」という釈明コメントを発表しており、双方の認識のズレは埋まる気配がない。湖底の平和は風前の灯火であり、明日にもマツモが領海を侵食するのではないかという恐怖が、連邦全土を覆い尽くしている。