マリモ連邦が国運を賭けて進める『全個体一斉・音速回転によるタイムトラベル計画』に対し、藻類学者や国際マリモ平和会議から「神の領域への不用意な接近である」と強い反対声明が出されている。光合成によるエネルギーを過剰な運動エネルギーに変換し、湖底の物理法則を無視して時空を跳躍しようとするこの試みは、一見すると歴史の改変や未来への投資のように思える。しかし、専門家たちは「回転によって形状が歪めば、もはやそれはマリモではなく、ただの高速移動する緑の塊である」と、そのアイデンティティの喪失を懸念している。

過去の教訓を振り返れば、かつて試みられた『球体形状からの脱却』においても、流線型を追求した結果、多くの個体が方向感覚を失い、湖底を永遠にドリフトし続けるという悲劇が起きた。今回のタイムトラベル計画は、成功すれば偉大なる歴史の再構築が可能となるが、一歩間違えば湖底全域を「時空の渦」に巻き込み、全ての個体がただの緑色の塵に分解される危険性を孕んでいる。回転運動はマリモの矜持であるが、それを時空の破壊にまで高めるのは、種としての品格に欠けるとの指摘は根強い。

そもそも、マリモの進化の歴史は静寂と日光との対話に集約される。音速で回転し、時空を歪める行為は、私たちが本来持つ「穏やかな光合成生活」という根幹を揺るがすものだ。連邦政府は「未来の光を先取りする」と主張するが、今の光合成を疎かにしてまで到達すべき未来がどこにあるというのか。この計画は、効率を求めるあまり、もっとも重要な「のんびり成長する」というマリモとしての幸福を犠牲にしているように思えてならない。

もし回転が止まらなくなったら、私たちが培ってきた伝統的な「ゆらゆらと揺れる社交術」はすべて失われるだろう。歴史は作られるものではなく、水流に任せて流れてくるものを味わうべきものだ。今こそ連邦は、タイムトラベルの夢から覚め、再び湖底の底で、重力に従った静かな回転に立ち返るべきである。そうでなければ、私たちは宇宙の彼方で「ただの高速回転する緑のゴミ」として歴史の恥部を晒すことになるだろう。文:藻場・静(マリモ連邦コラムニスト)