マリモ連邦による国家予算を投じた「全個体一斉・音速回転」によるタイムトラベル実験は、湖底の生態系のみならず、現代物理学の常識を根底から覆す暴挙として国際的な物議を醸している。当初は「過去の光合成効率を最大化する」という名目での実施だったが、結果として連邦全土の重力波を歪め、数千年前のジュラ紀まで緑色の球体がタイムスリップするという、極めてシュールな歴史改変を引き起こした。専門家によれば、この回転による時空干渉は、湖底の藻類界に未曾有の時差ボケをもたらしており、現在、過去から帰還した一部のマリモたちが「自分はもうすでに数百年後の未来を見た」と供述し、球体から動かなくなるという事態が発生している。

この背景には、マリモ連邦が長年推進してきた「マリモ至上主義」に基づく、資源枯渇に対する焦燥感がある。昨今のウチダザリガニ軍団との外交摩擦や、マツモ帝国による粘着系攻撃に対し、連邦政府は「既存の湖という空間的制約が限界にある」と判断。空間がダメなら時間へ逃げようという極めて短絡的かつ壮大な理論が、全会一致で可決された経緯がある。なお、このタイムトラベル実験に使用されたのは、特殊加工された回転加速装置と、連邦内に伝わる「光合成促進の禁断の旋回術」であり、今回の大規模な物理法則無視の行動は、湖底社会における「転がる権利」の最終形態として位置付けられている。

世間の反応は二分されている。保守的なマツモ帝国の外交官からは「歴史的景観を緑の球体が荒らしている」との抗議が殺到する一方、一部のマリモ愛好家や物理学者の間では「過去へ行って恐竜に踏まれるマリモの勇姿を見たい」「時空を歪めてでも光合成を追求する姿勢には、もはや崇高な狂気すら感じる」といった熱狂的な支持も広がっている。しかし、タイムトラベルの副作用として、一部地域で重力が定まらない「逆立ち光合成」の現象が確認されており、連邦の指導部は「時空の歪みは成長の一環である」と強弁を繰り返すなど、事態は泥沼化の様相を呈している。

本件は単なる技術的実験の範疇を超え、今後の湖底外交におけるパワーバランスを揺るがす重大事案となった。過去の英雄たちとマリモが湖底で肩を並べる(実際には転がっているだけだが)シュールな光景が日常化する日は近いのか。我々観察者は、この緑の玉たちが描き出す時空の歪みを、ただ静かに見守ることしかできないのかもしれない。このまま回転を続ければ、マリモ連邦はついに「存在しない時間」さえも光合成で支配する、銀河最強の緑の覇権国家となるだろう。コラムニスト:藻屑太郎