マリモ連邦政府は、長らく国家の威信をかけて推進してきた『重力遮断プロトコル』を本日付で完全撤廃すると発表した。全市民が浮遊して移動する新時代の到来は、かつてない開放感をもたらした一方で、予期せぬ弊害が浮き彫りになっていた。連邦議会が発表した声明によると、浮遊状態が長期化したことで市民の球体としての芯が軟化し、一部で「楕円形への変異」や「自己の沈降防止機能の著しい低下」が報告されていたという。今後は地球の引力に従う『転がり生活』へ強制回帰し、再び湖底の泥と戯れる本来のスタイルを取り戻す方針だ。

この政策転換の背景には、先般の『猫カフェ』進出計画で、浮遊する市民たちが猫の好奇心を過剰に刺激し、おもちゃとして翻弄される事案が多発したことがある。重力を失ったマリモは空気抵抗の影響を受けやすく、猫の猫パンチ一発で連邦の外交官が隣の県まで吹き飛ぶ事態が連発していたのだ。また、光合成を効率化するための『エナジー・ドーナツ』との相性も最悪で、空中でドーナツを摂取した個体が勢い余って成層圏まで到達し、気象観測用の観測気球と衝突するという国際問題も発生していた。政府はこれを「重力という名の古き良き絆の再確認」と呼び、市民に沈むことの美学を再教育する意向を示している。

世間の反応は賛否両論だ。古参の保守派市民からは「我々は転がるために生まれてきたのだから当然だ」と安堵の声が上がる一方で、浮遊生活に味をしめた若年層からは「重力は弾圧だ」との抗議デモが勃発。湖畔では、重力に抗い続けようとする個体が重しとして岩を抱え込む『アンカー・スタイル』が急速に広まっており、治安当局は「重すぎて動けない」という新たな沈滞ムードの制御に頭を抱えている。また、ウチダザリガニ外交官からは「ついに地上(湖底)へ戻ってくれるのか。これでようやく握手の時に目線が合わせられる」と、安堵のコメントが寄せられた。