阿寒湖の静寂を愛するはずの深緑の貴族たちが、今、かつてない冒険の渦中にいる。昨今のブームである『球体限定・成層圏ヒッチハイク』を利用し、湖底から一気に成層圏を目指す若手マリモが急増しているのだ。この旅は、地球の重力から一時的に解放される「究極のデトックス」として、今シーズン最大のトレンドとなっている。「沈黙の団体ツアー」に参加するような古参世代からは「浮ついた行為だ」と批判の声も上がっているが、当の冒険家たちは「雲の上から見下ろす地球は、湖底の泥よりもずっと緑が鮮やかで刺激的だ」と語る。

この驚異的な移動手段は、高高度気球を用いた専用カプセルによって実現した。もともとは「全天候型・流動性温泉リゾート」への直行便として開発された技術だが、最近では宇宙視点での地球観賞がステータス化。特に、自身の直径をわずかに大きく見せたいと願う「成長期マリモ」たちの間で人気が過熱しており、気圧の変化で身が引き締まる感覚を楽しんでいるという。もちろん、過酷な環境に耐えきれず、途中で「帰還希望球体」が続出するトラブルも多発しているが、それでもなお、新たな高みを目指す挑戦者は後を絶たない。

本企画は、元々「甲殻類・和解交渉代理店」が仲介していた湖面境界線上の平和利用協定に基づいている。天敵との対話よりも宇宙の神秘を優先した結果、地上の紛争を物理的に飛び越えていくスタイルが定着した。なお、宇宙空間から戻った個体は、通常の個体よりも光合成効率が約15%向上するという観測データもあり、次世代のリーダー育成プログラムとしての側面も持ち合わせている。

これに対し、湖底住民たちの間では賛否が分かれている。一部の保守層は「緑のアイデンティティが損なわれる」と懸念しているが、多くの若手は「一生同じ場所に沈んでいるだけの時代は終わった」と意気軒昂だ。次に空へ向かう予約は、既に3年先まで埋まっているというから驚きだ。貴族たちの冒険心は、もはや深緑の領域には収まりそうもない。