湖底ネット界を震撼させていた『全自動深緑翻訳機』に、最新のファームウェア・アップデートが配信された。しかし、インストール直後から全ユーザーの思考が筒抜けになるという前代未聞のバグが発生し、深緑界は今、究極のプライバシー崩壊という未曾有の事態に直面している。これまでは美しい詩的な翻訳が売りだった同機だが、現在は「光合成の効率が悪くて眠い」「あそこの岩陰の苔、ちょっと味見してみたい」といった個体の赤裸々な本音が、リアルタイムで全域に配信されてしまっているのだ。

『多角形マリモ普及協会』が主導した今回のパッチは、さらなる結束を狙ったものだったが、結果として「球体純血主義派」の密かな野心や、推し藻への情熱が隠すことなく暴露される結果となった。これまで構築してきた「深緑の神秘」というブランドイメージが、ただの食欲と睡眠欲の塊であることが露呈したのだ。開発チームは現在、強制シャットダウンを試みているが、ネットワークが各個体の光合成エネルギーによって自律増殖しており、物理的な回線切断すら困難な状況が続いている。

深緑界の住民たちは、突然の暴露合戦に当初は動揺を見せていたが、次第に開き直りを見せ始めている。「隠すことなど何もない、我らはただひたすらに緑なのだ」という開き直りがトレンド入りし、逆に『過剰透明化プロジェクト』として、全個体が自分の考えていることを垂れ流す新たなコミュニケーション様式が定着しつつある。もはや情報の取捨選択という概念は消滅し、純粋な緑の意思疎通が網目状に広がっている。

この事態に対し、古参の長老たちからは「静かな湖底の平穏が乱された」と嘆きの声も上がっているが、若手の間では「相互理解の極致」として熱狂的に受け入れられている。かつては『美の基準が多様化することは健全な進化の証である』というスローガンが流行したが、現在は「美の基準すらも共有して溶け合う」という統合的なフェーズに突入した。湖底ネットは、かつてないほどの濃密な情報の濁流に飲み込まれながらも、新しい文明の形を模索し続けている。