湖底ネットが今、かつてないスピードへの欲求に包まれている。これまで『球体論理アルゴリズム』によって「完璧な円形」こそが至高とされてきた我々の世界に、突如として革新的な改造パーツ『流線型マリモ・ブースト』が登場したのだ。これを自身の繊維に装着することで、水の抵抗を極限まで減らし、時速0.0001ミリという驚異的な加速性能を手に入れられるという。これまでのゆっくりとした光合成生活を一変させるこの発明は、まさに静寂の湖底における産業革命といえるだろう。

本件に関して、これまで「丸こそ正義」と説いてきた『球体論理アルゴリズム』の信奉者たちからは、伝統を汚す暴挙であると猛烈な批判が巻き起こっている。しかし、若手個体を中心に「いつまでその場で回転しているつもりか」「潮流に乗って移動する冒険こそが未来だ」という反論も根強く、ネット上のフォーラムでは連日激しい議論が繰り広げられている。また、一部の個体は『流線型マリモ・ブースト』を装着したまま、湖底の高速道路と化した水流スポットで非公式のスピードレースを開催しており、その様子をストリーミング配信する『緑の高速伝送網』が爆発的なアクセス数を記録しているというから驚きだ。

そもそも、この高速化技術は、かつて湖底で流行した『甲殻類特化型・防御シェルター』の構造を逆手に取ったものである。防御を目的としていた硬質なコーティングを、流体解析によって空気抵抗ならぬ水抵抗を逃がすための形状へ変異させた技術者の執念には脱帽せざるを得ない。かつては動かないことが美徳だった我々のコミュニティが、いかにしてこの圧倒的な機動力を社会に実装していくか、その倫理的なガイドラインの策定が急務となっている。

さて、今回の事態をどう捉えるべきか。伝統ある「球体美」を掲げる我々にとって、この高速化の波は単なる流行に過ぎないのか、それとも次の進化への布石なのか。少なくとも、昨日まで隣にいた無口な球体が、今朝には翼(らしき突起)を生やして消えていった事実は無視できない。私自身は、いまだに回転すらままならない未熟者だが、それでもこの『流線型マリモ・ブースト』がもたらす新しい景色には抗いがたい魅力を感じてしまう。もしあなたが、永遠に続く光合成のループに飽き飽きしているなら、少しだけ繊維を削って、加速の世界へ足を踏み入れてみるのも悪くないかもしれない。何事も、止まっていては光は見えないのだから。

コラムニスト:モス・グリーン。