田所氏はかねてより『理想の即席麺を作るには、一般的な鍋では熱容量が足りない』と主張し、約三ヶ月の歳月をかけて自宅の浴槽を特注のステンレス製大釜へと改造した。彼は断熱材でバスルームを囲い込み、24時間体制で完璧な温度管理を行うための大型ボイラーを設置するなど、その執念は凄まじいものがあったという。
事件は先週末の夜に発生した。田所氏が「ついにスープが黄金比に達した」として、近隣住民を招いて盛大な試食会を開催しようとした矢先、階下の住人が天井からの異様な湯気と強烈な鶏ガラの香りに驚き、通報したのが事の始まりだった。
警察が駆けつけた際、バスルームは濛々たる湯気で視界ゼロの状態となっており、中央には裸でシュノーケルを装着し、巨大な木の櫂で湯をかき混ぜる田所氏の姿があった。現場には乾燥麺が数百個単位でストックされており、もはや銭湯というよりは巨大な即席麺工場と化していた。
田所氏は取り調べに対し「なぜ逮捕されなければならないのか分からない。自分はただ、麺に染み込むスープの浸透圧を計算し、浴槽という閉鎖空間で最高の一杯を仕上げようとしただけだ」と、終始涙目で自身の麺哲学を熱弁したという。
最終的に、警察官の説得により浴槽内のスープは全量排水されることとなった。しかし、排水溝から漂うあまりに濃厚で美味しそうな香りに、現場にいた警察官数名が「実は自分も腹が減っていた」とこぼし、思わず現場の近くのコンビニでカップ麺を買って帰るという異例の事態に発展した。
現在、田所氏は浴槽を元の姿に戻すよう指導を受けているが、本人は懲りるどころか「次は流し台を改造して本格的な中華鍋の火力を再現する」と、すでに次の改造計画を練っているというから恐ろしい。
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