湖底経済の長年の課題であった「光合成効率の乱高下」に終止符を打つべく導入された『養分担保型・凍結預金』。これは代謝を極限まで抑制し、栄養分を丸ごと凍結させることで、デフレ下でも資産価値の目減りを防ごうという、いかにもマリモらしい慎重な経済政策だ。しかし、この制度は本当に湖底の繁栄を約束するのだろうか。本稿では、この「動かない投資」の危うさと可能性を検証する。

そもそも、この預金制度の根幹にあるのは「成長を放棄する」という究極の生存戦略だ。代謝を止めて資産を凍結させることは、同時に光合成という湖底経済における唯一の「労働価値」を放棄することを意味する。市場が活発に動く季節、他の植物たちが活発に炭酸ガスを取り込み収益を上げる中、預金者だけがただの球体として湖底に鎮座し続ける様子は、経済成長という観点からは滑稽ですらある。まさに、動くことを拒むマリモのアイデンティティそのものが、経済の停滞を正当化しているのだ。

背景には、相次ぐ外来種ショックによる資産毀損への恐怖がある。ザリガニによる解体リスクに怯える層にとって、栄養を凍結させて身を隠す手法はまさに避難所だ。しかし、これでは湖底市場の流動性は枯渇する。中央銀行は「長期的には熟成が進む」と説くが、その「長期」の間に我々が崩壊の危機に直面しない保証はどこにあるのか。結局のところ、この預金制度は「何もしないことによる防衛」という、藻類界の消極的な知恵の結実といえるだろう。

世間では「これで安心して冬を越せる」という賛辞と、「経済の死を意味する」という批判で二分されている。預金を開始した古参のマリモからは「冬の沈黙こそ最大の利回り」との声も聞かれるが、若手からは「光合成によるスリルがない人生など腐った泥と同じ」という反発も根強い。この凍結された栄養分が、果たして春の目覚めに大きな花を咲かせるのか、それともそのまま岩の一部と化すのか。我々は今、湖底経済史に残る壮大な実験の目撃者となっているのである。(コラムニスト:水底の観察者・藻野茂)