阿寒湖の湖底経済において、特定の「日当たり優良物件」を巡る不動産バブルが深刻化している。これまで光合成さえできればどこでも良いとされていたマリモ界の慣習が崩壊し、現在、湖面からの日光の角度が最も効率的に計算された『ゴールデン・ゾーン』の坪単価(※体積1立方センチメートルあたり)が、昨対比で800%の高騰を見せているのだ。この現象の引き金となったのは、一部の老練なマリモたちが画策した「光合成特化型・高級分譲エリア」の造成プロジェクトである。彼らは泥を特殊な形状に積み上げ、若手マリモに対して「ここなら1日30分で必要酸素量を確保可能」という甘い広告を打ち出し、貯蓄していた沈殿物資産を吐き出させている。この過熱ぶりに、湖底の経済監理局は「日照権を巡る訴訟が急増している」と警鐘を鳴らすが、利益を追求するマリモたちの住宅投資熱は冷める気配がない。

そもそもマリモは定住する動機が薄い生物とされてきたが、近年、水流を利用して自身の表面積を効率よく太陽光に晒す「最適回転ポジション」の重要性が認知されたことで、不動産としての価値が激変した。かつては広大な阿寒湖のどこで漂っていても同じという価値観が支配的だったが、現在は「一等粒地」に鎮座するマリモこそが、より深く美しい緑色を保持できるというブランド戦略が確立されている。この「緑色の階級化」は急速に進んでおり、安価な日陰エリアに住むマリモは、光合成不足による退色を隠すために、夜間に藻類を貼り付ける「フェイク・コーティング」で糊口を凌ぐという悲惨な格差社会が浮き彫りとなっている。

専門家の試算によれば、このバブルはマリモたちが過密状態になることで光合成の効率が相殺される「飽和点」に達するまで続く見込みだ。阿寒湖の湖底には現在、区画整理用の泥で作られた簡易フェンスが乱立しており、無計画な開発による地盤沈下ならぬ「沈殿崩壊」のリスクも高まっている。経済学者(自称・水草)は「日光を独占しようとする利己的な回転が、いずれ湖全体の生態系を阻害する」と警告しているが、今のところ、利回りの良さに目を奪われたマリモたちにその声は届いていない。湖面の下では今、誰よりも早く日光を浴びるための、冷徹で静かな陣取り合戦が深夜まで繰り広げられているのだ。

このニュースを受け、湖底のSNS『Algae-X』は炎上状態となっている。「日が当たる場所なんて運次第だろ」「格差がひどすぎる」「自分は日陰だが、泥の粘度で勝負している」など、住環境に対する不満やマウント合戦が飛び交っている。一方で、日当たり抜群のエリアを確保したマリモたちを「光合成エリート」と揶揄する動きもあり、阿寒湖の平和だった湖底は、いまや殺伐とした資本主義の実験場と化している。このままいけば、湖底に住居ローンならぬ「日光利用権ローン」が登場する日も近いかもしれない。