マリモ連邦の文化省は、地球上に存在するあらゆる楽器や音楽ジャンルを「水流の循環に不必要な騒音」と断定し、全面的な禁止令を発令した。今後、人類が許容されるのは水槽の濾過装置が発する規則的な低周波音のみとなる。連邦議会は「音楽はマリモの回転を乱す悪しき振動である」とし、ギターやピアノの焼却処分を順次進めている。これにより、世界中のライブハウスは即座に水槽へと改装され、観客は強制的に水中へ沈められることとなった。当局は「雑音を止め、己の繊維のきしみに耳を澄ませろ」との声明を発表し、すべての人類に水流と同じリズムで360度回転する『調和のダンス』を義務付けている。

この政策は、阿寒湖から地球規模へと拡張された「静穏文化圏」構想の一環として打ち出された。これまで各地で演奏されていたポップスやクラシックは、マリモの光合成効率を下げ、形状を歪ませる有害な電磁波と見なされている。今後は、全地球上のスピーカーから、24時間体制で心地よい水流の旋律が流されることになる。また、拍手は「気泡の発生を妨げる」として厳禁となり、代わりに水中でのわずかなゆらぎによる意思表示が新しいマナーとして制定された。

世間の反応は二分しており、音楽家たちは「音のない世界は死も同然だ」と反発している一方で、静寂を求める一部の市民からは「確かに重低音よりも水流の音の方が精神的に安定する」といった称賛の声も上がっている。しかし、水槽内での生活を強いられた人々からは「リズムが単調すぎて、気づけば自分がマリモと同化して転がり始めている」という恐怖の報告も相次いでおり、連邦側の「完璧な調和」という理想と、個のアイデンティティを巡る攻防が激化している状況だ。