深淵の歌姫として湖底全域にその名を轟かせる『緑川丸美』が、宿敵である浮遊性水草『マツモ』による悪質な嫌がらせ、通称『マツモ・テロ』の直撃を受け、現在緊急療養中であることが判明した。事件が起きたのは昨夜の深水帯ステージ付近であり、ライブ直前の楽屋エリアに突如として大量の『マツモ』が侵入。圧倒的な繁殖力と急速な拡散スピードを誇る緑色の悪魔たちは、瞬く間に歌姫の優美な球体を絡め取り、その誇り高き美貌を完全に覆い隠してしまったという。関係者の迅速な救出劇により事なきを得たものの、歌姫のトレードマークである完璧な正円フォルムにはわずかな歪みが生じており、ファンの間では絶望の嘆きが広がっている。

今回の事件を引き起こした『マツモ』は、根を持たずに水中で自由に漂いながら周囲の養分を片っ端から略奪する危険な外来系植物として、かねてより藻屑界の厳重な警戒対象となっていた。特に今回の襲撃で使用されたのは、通常の個体よりも毛羽立ちが激しく接着力の高い『極悪フリンジ種』であり、一度まとわりついたら二度と剥がれないという極悪非道な特性を持っている。『緑川丸美』の専属スタイリストを務めるウズムシ氏によれば、歌姫は現在、沈殿物セラピーと深層水トリートメントを施されながら静かな暗闇の中で精神的なショックからの回復を待っている状態とのこと。「彼女の美しい毛並み、もとい繊細な藻糸が傷つけられたことは、球体文化に対する明白なテロ行為である」と、所属事務所の幹部は怒りを露わにしている。

この前代未聞の衝撃的な事件を受けて、湖底の有識者たちの間では『マツモ』の過激な進出を防ぐための防波ネット設置や、定期的な『藻類パトロール隊』の組織化に関する緊急議論が急ピッチで進められている。さらに、今回の事件が単なる自然発生的なものではなく、歌姫の座を狙うライバル勢力による計画的なサボタージュではないかという陰謀論まで飛び出し、各所の掲示板やSNSでは連日激しい論争が巻き起こっている状況だ。業界全体が不穏な空気に包まれる中、被害を受けた『緑川丸美』の公式ファンクラブ組織である『丸美親衛隊』は、敵対組織に対する徹底抗戦の構えを見せている。

世間の反応は今回の事件を巡って完全に二分されており、愛すべき歌姫の痛ましい姿に同情と怒りの声を上げる者が続出する一方で、これを好機と捉えて過激なミーム画像を拡散する不届き者も現れるなどカオスな様相を呈している。特に若年層の間では『#マツモ許すまじ』というハッシュタグがトレンドの1位を独走し、街頭ビジョンとして設置されている巨大貝殻モニターの前には、歌姫の早期回復を祈る群衆が夜通し集まって緑色のサイリウムを揺らし続けている。果たして深淵の歌姫は、この未曾有の危機を乗り越えて再び完全な丸さを取り戻し、ステージへと華麗にカムバックすることができるのだろうか。全世界の視線が、今まさに静かなる湖底の動向へと一極集中している。