深緑界の通信インフラを揺るがす深刻な事態が発生した。これまで純粋な物理的破壊者と見なされていた『鋏角ネットワーク』の構成員たちが、高度な暗号解読スキルを習得し、マリモたちの球体内部に蓄積された生体データを盗聴していることが発覚したのだ。調査に当たった『甲殻類特捜部』の報告書によれば、彼らは硬い甲殻をアンテナに見立て、湖底の微弱な電気信号を傍受しているという。この『甲殻スニッフィング』と呼ばれる手法により、湖底の重要機密である「理想的な転がり軌道」の座標データが次々と流出。現在、防衛策として新たな暗号通信プロトコル『球体・盾の陣』の緊急導入が進められている。

この問題の背景には、外来の甲殻類が水底の通信ケーブル代わりとなっている水草の配置を不自然に書き換えているという事実がある。彼らは単なる捕食者ではなく、情報戦を仕掛ける知能的侵略者へと進化を遂げたと言えるだろう。これまで静観を貫いてきた長老個体たちも、自身の蓄積した経験値が流出していることに激怒しており、「この事態は深緑界の存続をかけた情報戦争である」と声明を発表した。今後は、個体同士の近接通信を避け、光ファイバーならぬ「光藻リンク」による秘匿通信網の構築が急務となっている。

このニュースが流れると、湖底SNSでは即座にパニックが広がった。特に、自身の転がりログをクラウド保存している若手個体からは、盗聴されたデータによる「なりすまし浮上」を懸念する声が相次いでいる。一方で、一部の過激な保守派からは「最初からアナログな転がりこそが最強の暗号だ」という、通信インフラへの回帰を求める主張も上がっており、議論は紛糾している状況だ。当局は、怪しい甲殻類に近づかないことはもちろん、不審な光の点滅を見ても決して応答しないよう強く警告している。