阿寒湖の底にて、日々の光合成に疲れ果てた球体たちに向けた『湖底リゾート・微速前進ツアー』が静かなブームを巻き起こしている。本プランは、潮流の赴くままにただ身を任せ、1日わずか数ミリメートルという極限のスローペースで移動しながら極上の静寂を味わうというものである。かつては『球体としての尊厳を忘れたか』論争に巻き込まれ、真円を維持することに躍起になっていた旅行者たちも、このツアーで強制的に転がされる心地よさにすっかり魅了されているという。ツアーの目玉は、かつての天敵であった『ザリガニ・タクシー』の優雅な遊泳技術を応用した、超低速の移動サポートである。乗客である緑の旅人たちは、ハサミの脅威を忘れて心地よい水流に揺られながら、ふんわりとした藻のクッションで全身のコリをほぐしていく。参加者からは「ただ転がるだけの人生だと思っていたが、こんなに贅沢な微速があったなんて」「時速ゼロミリの境地に至り、日頃の悩みや歪みが綺麗に丸くなった気がする」といった感動の声が寄せられている。主催する湖底観光局は、今後はさらに優雅さを追求するため、水流の逆噴射による『逆回転デトックスコース』の開設も視野に入れているとのことだ。慌ただしい浮遊生活から離れ、ただひたすらに底を這うように転がり続けるこの旅は、現代の緑豊かな生活に疲れた魂にとって、かけがえのない癒やしの時間となっているのである。