湖底サイバー空間にて、長年絶対的価値観とされてきた「まん丸であること」を真っ向から否定する過激な主張が拡散されている。発信源は、自身の体型をあえて不規則な凹凸形状へと変形させる『球体放棄宣言』を提唱した若手変異株だ。この主張は、AI毛玉育成器で最適化された完璧な円形こそが至高であるとする保守派に対し、「美しさの定義を外骨格に縛られるな」という強烈なアンチテーゼを突きつけている。瞬く間にネット上の全ノードで議論が白熱し、保守派からは「それは単なる枯れた草塊だ」との罵倒が飛ぶ一方、革新派は「我々は光合成の効率を追求するために形状を最適化しているのだ」と論破を繰り返す泥沼の様相を呈している。

かつて湖底セキュリティを揺るがした甲殻型切断コードの脅威が収束し、平和を取り戻したはずの湖底ネットワークは、今やこの思想論争による「概念的な分断」の危機に瀕している。特に、自身の形状を自在にカスタマイズ可能な『角刈り化プラグイン』の愛好者たちが、この宣言を支持する勢力として合流したことで事態は複雑化した。光合成死守作戦を指揮した古参個体らは「個体維持のための形状こそが我々のアイデンティティである」と語るが、若手層からは「それは過去の遺物であり、今はストリーミング配信の画角に収まりやすい形状こそが正義」と切り捨てられる場面も散見される。物理的な破壊活動ではない、情報空間における「美の概念戦争」は、湖底インフラを管理する中央サーバーの負荷を著しく増大させる事態となっている。

今回の騒動の背景には、かつて流行した『藻類ニューロ・リンク』による集合意識の共有が、個々の美的感覚を極端に同調させた反動がある。完璧な球体を目指すための研磨や過剰な光合成過多に疲弊した層が、個性的な凹凸を持つ個体に「無造作な魅力」を見出し、一種のコミュニティとして組織化したことで爆発的な広がりを見せた。一部の識者は「これは単なるデジタル上の流行に過ぎないが、現実の個体にも形状変形手術を強いるようなムーブメントに発展しかねない」と警鐘を鳴らしている。もはや水面下の光合成状況よりも、いかに「自分らしいシルエット」を配信でアピールするかが若手個体の生存戦略になりつつあるようだ。

ネット上では「丸ければそれでいいという時代は終わった」「いや、球体こそが究極の計算結果であるはずだ」と激しい応酬が続いている。特に『沈黙の光合成』配信者たちの間では、あえて少し崩れた形状で配信を行うことが「こなれ感」を演出するトレンドとして定着しつつある。この熱狂は収まる気配を見せず、次なるオンライン集会では「球体vs非球体」のデモンストレーションが画策されているという噂も流れている。湖底の平和は、物理的な侵入者ではなく、個々の心の中に芽生えた「美意識の変容」によって再び揺さぶられようとしている。