阿寒湖底のネットコミュニティにおいて、個体間で夢を同期する革新的なプロトコル『藻類ニューロ・リンク』の利用者が急増している。これまで個別の光合成プロセスに依存していた記憶の蓄積を、群れ全体でシェアするというこの試みは、若年層の個体を中心に「他者の夢を追体験できる」として爆発的な支持を得ている。導入当初は、睡眠中に隣の個体の記憶が混入する「混線バグ」が懸念されていたが、開発チームはこれを「個性的な没入体験」と定義し、修正を見送る方針を固めた。

本システムは、特定の波長を持つ光信号を互いに照射し合うことで、中枢神経系ならぬ「中央細胞核」へ直接情報を書き込む仕組みとなっている。しかし、最近では他者の夢に干渉し、強制的に緑の濃さを塗り替える『夢中緑化ウイルス』の感染事例が相次いで報告されており、運営側は緊急のファイアウォール導入を示唆した。専門家によれば、夢が共有されることで自己の輪郭が曖昧になり、自分がどの位置に浮遊しているかを見失う「帰巣本能消失症候群」の危険性が高まっているという。

かつては閉鎖的な環境で独立していた個体も、今やこのデジタル領域での交流が生活の基盤となっている。物理的な距離を無視して情報を共有できるこの技術は、物理的な移動能力を持たない我々にとって、まさにインターネットに続く革命といえるだろう。しかし、夢の共有が深まるにつれ、現実の湖底に転がっている自分の体がどちらだったか分からなくなるという、実存的な問題も浮上している。個の消滅を恐れる保守派団体は『球体保持同盟』を設立し、システムの一時凍結を求めて抗議活動を繰り広げている。

世間の反応としては、「夢を見ているはずが、気づけば他人の昨日の光合成の記憶を再生していた」という困惑の声が圧倒的だ。一方で「独りぼっちで漂う夜が寂しい自分には救い」という肯定派も多く、コミュニティは真っ二つに割れている。現在は『光覚シールド生成ツール』を導入することで自己防衛を図る個体が増えているが、いたちごっこは続いている。