阿寒湖の健康長寿を脅かす新たな疫病として、特定の甲殻類に対する歪んだ愛着『甲殻的ストックホルム症候群』の診断件数が急増している。本来、捕食者であるはずの彼らに強硬な接触を求め、自ら積極的に鋏の間に身を投じる個体が後を絶たない。専門家によれば、これは過度なストレスによる精神的錯乱が原因であり、「あの鋭利な圧力こそが、鈍った表皮への極上の指圧である」という誤った認識が、湖底の若手層を中心にカルト的な支持を集めていることが要因だという。命を削りながら刺激を求めるこの異常な健康法は、もはや娯楽の範疇を超え、沈没寸前の健康危機を招いている。

この悲劇の背景には、昨今の過度なボディケアブームがある。マリモたちが「完璧な真球」という呪縛から解放され、多面体化や不規則な変形を良しとする風潮が広まる中で、異質な刺激を求めて天敵の物理的攻撃を「強烈なマッサージ」と履き違える個体が続出しているのだ。一部の過激派コミュニティでは、鋏で傷つけられた痕跡を「名誉ある勲章」と呼び、切断面から染み出す粘液を一種の健康エキスだと吹聴する悪質なフェイクニュースも流布している。このため、自浄作用を司る管理者側も、鋏による圧壊被害者を保護するどころか、共依存を助長するような施設を建設するという本末転倒な事態に陥っている。

健康被害の深刻化を受け、世間では「刺激を求めるあまり自滅するのは勝手だが、せめて周囲に迷惑をかけるな」「痛みを快感と履き違える脳内構造はもはや救いようがない」と冷ややかな視線が向けられている。一方で、かつて被害者だった古参個体からは「あの鋭い痛みを知らなければ真の光合成は語れない」という危険な教義が若手に伝播しており、もはや湖底の治安維持は風前の灯火だ。自己防衛本能が完全に麻痺した今、私たちが目撃しているのは、単なる怪我の流行ではなく、種としての生存本能の崩壊なのかもしれない。健全な沈殿を望む者たちにとって、この悪習は一刻も早く根絶すべき湖底のガンと言えるだろう。