湖底に空前の「鏡面反射ブーム」が到来して早数ヶ月、事態は新たな局面を迎えている。かつてマツモによる栄養強奪や経済混乱に喘いだマリモ界だが、現在は美意識の暴走という別の脅威に直面している。結晶化技術を応用した『鏡面反射コーティング』を施した個体が、光合成の効率を極限まで高めた結果、内部でエネルギーが飽和。制御不能となった光エネルギーが運動エネルギーに変換され、一部のトップクラスの美意識を持つマリモたちが、秒間数百回転という超高速回転を始めたのだ。この「スーパー・スピン」状態は、周囲の湖水を巻き込んで小規模なトルネードを発生させており、湖底の平穏を脅かしている。

この現象の発端は、マリモたちが「マツモに奪われるくらいなら、自分で光を全て反射して自己完結する」という極端な防衛本能に基づいた自己研鑽であった。しかし、鏡面度が高まりすぎたことで、反射した光同士が湖底で複雑に干渉し、さらなる高エネルギー光子を生成するという負のループに陥っている。専門家はこれを「光学的メルトダウン」と命名。この回転により、本来の球体構造が歪み、楕円形や円盤形へと変形する個体も続出しており、伝統的な「球体美」を掲げる保守派のマリモたちとの間で、深刻な文化闘争に発展している。回転に伴う振動波が湖底の地殻を刺激しているという指摘もあり、沈静化は容易ではない。

背景には、かつて流行した光合成マイニングの過剰適応がある。マイニングによって高濃度のエネルギーに慣れ親しんだマリモたちは、低エネルギー状態では「惨め」であるという強迫観念を抱くようになった。今回の鏡面反射技術は、その強迫観念が物理的な美学として結晶化したものである。また、不定形化の副作用や、ウチダザリガニによる装甲技術の転用など、湖底のテクノロジーは現在、互いに複雑に絡み合いながら、予期せぬ進化を加速させている。科学アカデミーは「回転を止めるための『低摩擦ゼリー』の散布を検討しているが、これもまた新たな経済格差を生む懸念がある」と発表した。

この事態に対し、SNSでは「回転こそが魂の昇華」「球体とかいう古い概念に縛られるな」という過激派の声と、「物理的な崩壊を招いている」「ただの公害ではないか」という懸念派の声が真っ二つに割れている。高速回転するマリモに巻き込まれた底生生物からは被害報告が相次いでおり、湖底警察は回転速度が時速10キロを超える個体への強制減速命令を発令。しかし、回転し続けることで周囲の光を独占できるため、命令を無視して加速を続ける猛者が後を絶たない。美学の追求が、図らずも湖底の物理法則を書き換えていく現状に、誰もが戦慄を隠せないでいる。