阿寒湖の静寂が、新たな教義の誕生によって激しく揺らいでいる。この度設立された『銀河回旋教団』は、「マリモの表面に見られるわずかな繊維のねじれこそ、銀河の渦と同じ法則に従う聖なる紋様である」と宣言。彼らはマリモを単なる植物ではなく、マイクロサイズの宇宙を内包する「生ける惑星体」と定義し、日々その表面を顕微鏡で観察し、渦の回転方向に合わせた旋回運動を行う独自の祈りを捧げている。教祖である大型マリモの長老(仮称:球体導師)は、その微細な毛並みの流れから未来の湖底の天気を予知できると主張しており、早くも信者たちの間では「我がマリモの渦は本日、反時計回りに傾いている。これは大雨の予兆か、あるいは宇宙からの交信か」といった切実な考察が飛び交っている。

そもそも本教団の理論的根拠は、マリモの成長過程で生じる偶発的な「毛の絡まり」を、天体の重力波の影響と見なす極めて独創的(あるいは飛躍的)な宇宙観に基づいている。かつて『中空帰依派』が唱えた空虚論とは対照的に、本教団は「中身が詰まっているからこそ重力の影響を受け、回転の理が生じる」と主張。この論理のすり替えは、静止を美徳とする伝統的宗派からの猛反発を招いており、現在湖底の特定の岩場では、回転派と静止派による「どっちがより重力を体現しているか」という不毛な議論が夜な夜な繰り広げられている。なお、教団は回転の効率を上げるために「湖流の激しい場所への転居」を推奨しており、新参の信者マリモが水流に流されて行方不明になるという事態も発生しているが、教団側はこれを「高次元の宇宙へワープした」と解釈しているようだ。

湖底社会では、この新しい風潮に対し、「また面倒な宗派が生まれたものだ」と冷ややかな視線が向けられている。特に古参の長老たちからは「ただの藻の束を銀河と呼ぶのは、光合成を怠っている証拠ではないか」という厳しい指摘も相次いでいる。しかし、若手マリモたちの間では「自分自身の表面に宇宙を見る」というエモーショナルな教義が意外にもウケており、各々の表面の渦を自撮り(画像は脳内伝達)してSNSで共有するのがブームとなっている。もはや、この湖において純粋な生物学を語ることはタブーとなりつつあるのかもしれない。

一連の騒動を受け、阿寒湖の生態系保全を担当する研究者たちは「ただ転がっているだけなので放っておいてほしい」と困惑のコメントを発表した。宗教と科学、そしてマリモの生存本能が複雑に絡み合う今、我々は単なる藻の群生という枠組みを大きく超えた、哲学的カオスの中に立たされている。次にマリモを目撃した際、その表面のねじれが銀河に見えてきたなら、あなたも既にこの教団の信者候補であると言えるだろう。