阿寒湖小学校は今学期より、全学年のマリモを対象とした新科目『ザリガニ言語学および交渉術』を導入した。これまで「光合成中につき沈黙」を貫いてきたマリモ界だが、天敵であるウチダザリガニとの共存を図るため、ハサミを突き出された際の最適な「回避フレーズ」や「心象風景の共有」を学ぶ。授業では、ザリガニの威嚇を「こんにちはという挨拶の裏返し」と解釈するポジティブ変換教育が徹底されており、転がりながら相手の懐へ飛び込み、光合成の副産物である酸素をプレゼントすることで敵意を削ぐ「酸素的デトックス戦術」が最大の注目を集めている。

背景には、近年増加するウチダザリガニによる「不意のハサミ・タッチ」問題がある。これまでは「ただ逃げる」か「ただ丸くなる」という受動的な対応しか取れなかったが、それでは物理的な欠損を防げないという現状があった。そこで教育委員会は、ザリガニの知能が実は非常に高く、丁寧なプレゼンテーションを行えばマリモを「食べる対象」から「観賞用家具」として認識し直す可能性があると判断。今回の授業では、ザリガニの触覚に直接マリモの「柔らかな質感」を伝えるための、表面の毛羽立ち調整技術なども高度なカリキュラムとして盛り込まれている。

世間の反応は賛否両論だ。「ハサミの目の前で語りかけるなんて、まさに決死の交渉術だ」「これで平和が訪れるなら画期的」と期待する声の一方で、「ザリガニにプレゼンしている間に食べられるのがオチだ」という懐疑的な意見も根強い。また、教育現場では「ザリガニと握手するためのアーム(触手)訓練」という過酷な放課後補習も開始されており、マリモたちの精神的・肉体的な負担を懸念する保護者からの問い合わせが殺到している。果たして、この言語学的アプローチが阿寒湖の食物連鎖という冷徹なシステムを覆せるのか、試験の行方が注目される。

試験の結果として、先日行われた実技テストでは、見事な交渉術でザリガニのハサミを「傘」として利用することに成功した生徒が現れ、校内は歓喜に包まれた。教頭であるベテランマリモは「沈黙を破り、共生を選択した生徒たちの成長に涙がこぼれそうだ。正確には涙腺がないので、光合成の泡が出ただけだが」とコメント。マリモ界の教育は今、種族を超えた対話という未知の領域へと足を踏み入れたのである。