湖底の平和な環境に、突如として建設ラッシュが到来している。これまで単独で岩場や砂地に身を寄せていたマリモたちが、近年、自身の体を積み重ねることで垂直方向に居住空間を拡張する「積層型マンション」の開発に着手した。これは光合成の効率を最大化しつつ、湖底の冷え込みから身を守るという画期的な構造だ。最上階は日光を独占する特等席として、若手マリモたちの憧れの的となっているが、下層階に住む長老マリモからは「圧力がかかって形が歪む」という切実な苦情も寄せられている。さらには、一階部分をエントランスと見なし、通りかかる小魚に「ここから先は会員制だ」と威圧するタワー型居住区も出現しており、湖底の不動産事情はかつてないバブルの様相を呈している。

もともとマリモは、湖の波に揺られて自然と球体を維持する「流浪の民」であった。しかし、近年湖底の流速が穏やかになったことで、「どこか一箇所に腰を据えて自己顕示欲を満たしたい」という欲求が爆発したことが今回の建築ブームの背景にある。特に、自身のサイズを巧みに利用して階層を形成する技術は、建築学に詳しい一部の研究者の間で「藻類による都市計画の極致」と高く評価されている。ただし、一度積み上がってしまうと自力での回転が困難になり、全体が茶色く変色してしまうという致命的な欠陥も指摘されており、居住権を巡る裁判も湖底で水面下で進行中だ。

この驚きの建築様式について、湖底の住人たちは概ね好意的だ。「階層があることで、上下関係というよりもリソースの効率的な分配が可能になった」と語る高層階居住者のマリモもいれば、「日照権の問題で隣家(隣の岩)と絶交状態だ」と嘆く者もいる。また、一部の過激なマリモたちが勝手に「管理組合」を設立し、周辺の砂利を強制的に徴収してエントランスの舗装を始めたことで、既存の生態系との間に摩擦が生じている。今後は、この積層構造が湖全体の景観をどのように変えていくのか、専門家は注視している。

このニュースを受け、湖底のSNS『Algae-gram』では、自分のマンションを投稿する「#積層マリモ映え」がトレンド入りしている。中には、わざと異種のエビを住まわせることで「家賃(排泄物による養分)」を徴収する強かな経営者マリモも現れた。このまま建築制限が設けられなければ、数年後には湖底がマリモの高層ビル群で埋め尽くされ、光が全く届かない暗黒街と化すのではないかと懸念の声も上がっている。