羽田野健一さん(62)は、30代の頃から「納豆は回数こそがすべて」という信念のもと、箸が折れるほどの情熱で納豆を混ぜ続けてきた。かつては1万回攪拌の記録を樹立し、周囲を困惑させたこともある彼だが、寄る年波には勝てず、ついには機械の力を借りることを決意したという。

彼が開発した『ネバネバ・ターボ・プロ』は、最高回転数毎分3000回転を誇る強力なモーターを搭載。さらに特殊合金製の箸を装着することで、納豆の糸を分子レベルで絡み合わせ、かつてない究極のクリーミーさを実現することを目指した。製作費は退職金の半分にあたるおよそ300万円。

お披露目当日、羽田野さんは集まった家族や近所の人々に緊張した面持ちで語った。「これは単なる家電ではない。納豆との対話、そして宇宙の真理へ至るための装置だ」。そう言い放ち、彼は最高級の小粒納豆をセットし、スイッチを入れた。

スイッチが押された瞬間、マシンは想像を絶する爆音とともに唸りを上げた。納豆は一瞬にして黄金色のムースへと変化し、その美味しそうな香りが部屋中に広がった。観客が固唾を飲んで見守る中、攪拌機はさらに加速し、装置全体が激しい振動とともに机の上でダンスを始めた。

「これだ!これこそが究極の粘りだ!」と歓喜の声を上げる羽田野さんだったが、マシンが発する遠心力に彼自身が魅了されてしまったのか、そのまま立ち尽くしてしまった。停止ボタンを押すことを忘れ、機械が発する心地よいリズムに身を任せ、彼はまるで瞑想にふけるかのように微動だにしなくなった。

結局、マシンは納豆の容器を突き破り、壁一面を完璧に泡立てられた納豆で塗りつぶしたところで、モーターが焼き付いて停止した。部屋中が強烈な大豆の匂いに包まれる中、ただ一人、完璧に混ぜられた空っぽの器を抱えた羽田野さんは、静かに呟いた。「……やっぱり、手で混ぜたほうが美味しいな」