轟木氏がこの壮大なプロジェクトを開始したのは約3年前のことです。彼は「不要とされるものにこそ魂が宿る」という独自の哲学を掲げ、自ら大量の字を書いては消すという地道な作業を繰り返すことで、仏像の素材を調達し続けてきました。その献身的な姿は近隣住民から「文房具の仙人」と称されるほどでした。

制作過程は困難を極めました。特に粘着力の調整には苦労し、夏場は仏像が少しずつ「ダレる」という怪奇現象が発生。轟木氏は仏像を冷やすために業務用冷蔵庫を導入し、電気代の請求書が届くたびに仏様を拝むという、まさに修行のような日々を送っていました。

事件が起きたのは、大仏の左手にあたる「施無畏印(せむいいん)」の仕上げを行っていた昨日の午後です。周囲の空気が張り詰め、いよいよ完成という静寂のなか、轟木氏の鼻腔を突く微かな埃。それは、長年蓄積された消しゴムの微粒子が引き起こした、抗いがたい生理現象でした。

「ハックショォォン!」という轟木氏の咆哮のようなクシャミは、時速120キロの突風となって大仏を直撃しました。緻密に積み上げられた消しゴムのカスは、まるで雪崩のように崩れ去り、数分後には部屋中にただの事務用品の残骸が散らばる惨状と化しました。

現場に駆けつけた同僚によると、轟木氏は粉塵にまみれた状態で床に座り込み、「仏像は形があるから壊れるんだ。無とはまさにこのことだった」と、悟りを開いたような顔で呟いていたといいます。

轟木氏は現在、崩れ去った消しゴムのカスを拾い集め、今度は「世界一大きい消しゴムのカス玉」を作るプロジェクトに切り替えて活動を再開しています。彼は「今度は物理的な衝撃ではなく、湿気だけが宿敵だ」と、新たな挑戦に向けて闘志を燃やしている模様です。