都内在住の会社員、羽田翼さん(34)は、幼い頃から食パンの「耳」の部分にのみ執着し続けてきました。通常の食パンから切り出した耳を、湿温管理を徹底した特製アクリルケースで保管し、クラシック音楽を聞かせることで「耳のポテンシャルを最大化する」という独自の研究を3年間続けてきたのです。
羽田さんの研究ノートには『耳の黄金比』や『耳が最も喜ぶ湿度』など、パンの常識を覆す数々のメモが綴られています。彼は「白い部分はあくまでクッション。本体である耳こそが、パンの魂を宿す神聖な領域なのです」と、熱い眼差しで語りました。
事態が急変したのは、研究開始から1095日目の早朝でした。いつものようにケース内の耳に話しかけ、ブラッシングを行っていた羽田さんは、耳の断面から小さな泡のようなものが膨らんでいることに気づきました。
「おはようございます、今日もカリカリですね」と羽田さんが問いかけると、なんと耳の断面が微かに震え、かすかな声で「バター……バターを塗って……」と呟いたのです。羽田さんは驚愕のあまり、愛用していたトースターを抱きしめて号泣しました。
その後もパンの耳は「もっと香ばしくして」「少し冷たい」など、逐一要求を伝えてくるようになり、羽田さんの生活は一変しました。彼は仕事を辞め、耳の好みの焼き加減を調整するために、高級オーブンを5台買い揃える生活にシフトしました。
専門家からは「幻聴の可能性が高い」との指摘も上がっていますが、羽田さんは意に介しません。彼は現在、パンの耳に合わせた最適なジャムを調合する研究に没頭しており、最近ではパンの耳から「就職活動のアドバイス」をもらっていると主張しています。
結局、羽田さんが大切に育て上げたパンの耳は、翌朝には完全に乾燥してただの乾いたパンの破片に戻りました。羽田さんは「会話ができたのは、彼が旅立つ直前の最後の花火だった」と語り、現在は近所のスーパーで売られている食パンの山に向かって、新たな相棒を探す日々を送っています。
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