羽田野氏の研究は、納豆のネバネバを科学的に分析することから始まった。彼は「ネバネバとは、糸と空気の芸術である」と主張し、市販の納豆に飽き足らず、自宅ガレージを改造した『納豆粒子加速器』を用いて、飽くなき攪拌を繰り返してきた。

特筆すべきは、その回転速度である。当初は人力で行っていたが、現在では回転数毎分3000回を記録。もはや羽田野氏の右腕は肉眼では捉えきれない残像と化しており、その摩擦熱で納豆は少し温かくなるという副作用さえ生んでいる。

「最初はただの豆でしたが、5000回を超えたあたりで、納豆が自らの意志で空気を抱き込み始めたんです」と語る羽田野氏。その仕上がりは、まるで高級ホテルのデザートに出されるムースのように白く輝き、箸で持ち上げると、まるで重力から解放されたかのようにふわりと浮遊する。

近隣住民からは「最近、家の近くで掃除機が空を飛んでいるような音がする」という苦情も寄せられたが、羽田野氏は「あれは納豆が歓喜している音です」と一蹴。彼の情熱はとどまるところを知らない。

しかし、この過剰な攪拌には重大な欠点があった。あまりにキメが細かくなりすぎた結果、食べようと口に運ぶと、納豆がすべて気体のように消滅してしまうのだ。「味は究極の納豆なんですが、食べた気がしない。カロリーもゼロに近い気がします」と、羽田野氏は空っぽの箸を見つめながら寂しげに微笑んだ。

結局、羽田野氏が開発したこの『究極のムース納豆』は、現在、食べるためではなく、高級アロマキャンドルの代替品としてインテリアショップから熱烈なオファーが届いているという。