羽田野さんがこの壮大なプロジェクトを開始したのは、大学一年生の時だった。試験勉強中に偶然丸まった消しゴムのカスが、あまりにも完璧な形状をしていたことに感動し、「これをいつか歴史に残る建築物にしたい」と突飛な決意をしたのが始まりだという。それ以来、彼はあらゆる筆記用具のミスを恐れず、むしろ「カスを生成するため」に積極的に誤字脱字を繰り返してきたという。

自宅の一室を占拠するようになった『カス・ピラミッド』は、高さ180センチ、底面の幅2メートルにも及ぶ巨塔だ。素材は全て、羽田野さんがこれまで使用してきた数百個の消しゴムの削りカスで構成されている。接着剤には、かつて大量に買い込んでいたものの使い道を見失っていたスティックのりを使用。その見た目は、まるでゴム製の砂岩でできた古代遺跡のような重厚感を放っており、触れると弾力があるという独特の質感が特徴である。

「製作過程で最も苦労したのは、実は消しゴムの銘柄の統一です」と羽田野さんは熱く語る。異なるメーカーの消しゴムを混ぜると、カス同士の摩擦係数が微妙に異なり、構造の安定性に欠けるのだという。そのため、彼は二十年間、特定のメーカーの消しゴムだけを買い続け、全国の文具店を巡って在庫を買い占めるというストーカーまがいの努力も積み重ねてきた。

完成披露の日、近所の住人を招いての公開イベントが開催された。訪れた人々は、そのあまりの存在感に絶句し、中には「何かの呪術的な祭壇に見える」と涙を流す者もいた。しかし、その輝かしい成果はわずか一時間で幕を閉じることになった。

というのも、展示会場に設置した強力なサーキュレーターの風が、ピラミッドの頂上部を直撃してしまったからだ。二十年かけて積み上げた『カス・ピラミッド』は、まるで雪崩のような音を立てて崩れ去り、一瞬にしてただの「大量の消しゴムのカス」へと姿を変えてしまった。

会場は静まり返り、舞い上がる細かいカスが参加者の服を真っ白に染め上げた。羽田野さんは呆然と床に散らばったカスを見つめながら、「ああ、掃除が楽になった……」と一言だけ呟き、その場で静かにほうきを取りに行ったという。彼の二十年は、今や床掃除の開始を告げるただの合図として、歴史の闇へと消えていったのである。