「納豆は混ぜれば混ぜるほど、それは納豆ではなくなる」と語るのは、自称・納豆攪拌研究家の羽田野健太さん(34)です。羽田野さんは5年前から毎日、朝食に納豆を食べる際、箸で混ぜる回数を記録し続けてきました。当初は糸を引く粘りにこだわり、数千回混ぜることに情熱を注いでいましたが、次第にその飽くなき探究心はエスカレートしていきました。

3年が経過した頃、羽田野さんの納豆はもはや茶色のペーストを超え、淡いピンク色のマシュマロのような形状へと変貌を遂げました。近所の人々からは「あの家から漂う、醤油の香りのする雲のようなものは何だ」と怪しまれることもありましたが、彼はひたすら箸を動かし続けました。肘を痛め、鍼灸院に通う日々もありましたが、そのたびに「まだ空気を含ませる余地がある」と自分を鼓舞したといいます。

そして昨日、ついに8万回という大台を突破した瞬間、羽田野さんの目の前で奇跡が起きました。納豆の容器の中に、物理法則を無視した巨大な気泡の塊が出現。箸を止めて匂いを嗅ぐと、そこには大豆の香りも発酵の風味もなく、ただただ「澄み切った北極の朝の空気」のような香りが広がっていたそうです。

一口食べてみた羽田野さんは、「無味無臭、いや、もはや無である。これは私の求めていた納豆ではない」と悟りを開いたかのように呟きました。この瞬間、彼は納豆攪拌の第一線を退くことを決意。手元に残ったのは、プラスチック容器にこびりついた、空気を極限まで抱え込んだタンパク質の残骸だけでした。

現在、羽田野さんは「次は醤油を一滴も垂らさずに、醤油の味を脳内に響かせる修行」を計画中とのことですが、家族からは「いい加減にしてほしい」と冷蔵庫の納豆をすべて回収されています。彼が残した「混ぜた時間は裏切らないが、腹は膨れない」という名言は、今後、極端な趣味を持つ人々の心に深く刻まれることでしょう。