会社員の田所弾平さん(45)が20年前から書き続けた日報と、その誤字を消し続けた結果生まれた『消しゴムのカス』が、ついに芸術へと昇華されました。彼が住むワンルームマンションの一室を占拠していたのは、高さ2メートルにも及ぶ巨大な『カス大仏』です。

「最初は、ただ机の上が散らかるのが嫌で、なんとなく集めていたんです」と田所さんは語ります。しかし、5年が経過した頃、そのゴムのカスたちが持つ独特の質感に気づき、彼は使命感に目覚めました。「これは単なるゴミではない。私の思考の残骸であり、失敗の軌跡なのです」

制作過程は困難を極めました。糊の代わりに自身の唾液と、使い古したホッチキスの針の芯を混ぜ合わせた独自の粘着剤を使用。湿気対策として、梅雨の時期には部屋の除湿機をフル稼働させ、自身はサウナのような過酷な環境で製作を続けたといいます。

完成した大仏は、光の当たり具合によって淡いパステルグレーから、黒ずんだ鉛筆汚れの混じったダークグレーまで、複雑なグラデーションを見せます。その表情は、まるで長年の事務作業から解放された聖者のような、諦念にも似た安らぎを湛えています。

近隣住民からは「最近、部屋からかすかに文房具の匂いが漂ってくる」といった困惑の声も上がっていますが、田所さんは意に介しません。むしろ「この仏像には、私の20年分の『訂正』が詰まっている。つまり、この世の全ての間違いは許されたということなんです」と、哲学的なコメントを残しました。

しかし、悲劇は完成の翌日に訪れました。大仏を鑑賞しようと身を乗り出した田所さんが、うっかり大仏の足元に手をかけてしまったのです。消しゴムのカスで構成された大仏は、その強度の限界を迎え、重力に従って一瞬でさらさらとした灰色の山へと崩れ去りました。

呆然とする田所さんをよそに、部屋は再び一面の消しゴムのカスで埋め尽くされました。彼は深いため息をつくと、引き出しから新しい消しゴムを取り出し、一言こう呟きました。「さあ、次は座禅を組むお地蔵さんを作るか」