「トーストにバターを塗るという行為は、あまりにも原始的で非効率だ」。そう語るのは、長年かけて夢の調理家電を開発してきた轟木健太氏(42)である。彼が開発したのは、圧縮空気を利用してバターをトーストへと射出する『バター・キャノン・プロトタイプ』。バターを均一に塗るのではなく、音速に近い速度で叩きつけるという大胆かつ狂気じみたコンセプトだった。

実験当日、轟木氏は家族をキッチンに招き入れ、晴れ舞台を見せようとした。「見ていてくれ、これが人類をバターの重労働から解放する瞬間だ」。彼がスイッチを入れると、マシンは期待通りに唸りを上げた。しかし、バターをセットした際の角度計算に致命的な誤差が生じていたことが、稼働直後に判明する。

マシンの発射口はトーストではなく、朝食を待っていた妻の顔面を正確にロックオンしていた。轟木氏が驚愕する間もなく、冷たく硬いバター塊が時速120キロで妻の頬に直撃。衝撃音とともに飛散したバターは、連鎖反応的に子供たちの顔、壁、そして愛犬の背中へと美しい放物線を描いて着弾していった。

キッチンは一瞬にしてバターの霧に包まれ、まるで冬のスキー場のような光景が広がった。轟木氏が呆然と立ち尽くす中、壁に張り付いたバターがゆっくりと滑り落ちる音が、静まり返った室内で不気味に響いた。幸いにも家族に怪我はなかったが、リビングまで飛んできた塊がテレビ画面に直撃したことで、一家はテレビなしの朝を迎えることとなった。

轟木氏は現在、マシンの解体を進めながら、新たな発明品『全自動目玉焼き射出砲』の研究に没頭しているという。彼は「今回の失敗は弾道の計算ミスであって、バターを塗るというコンセプトに間違いはない」と、全く反省の色を見せていない。むしろ、壁や天井がバターでコーティングされたことで、キッチン全体の断熱性が向上したと独自の解釈を語っている。

近所からは「朝から何かが爆発するような音が聞こえる」「バターの甘い香りが漂ってきて食欲が削がれる」といった苦情が寄せられているが、轟木氏は「私の情熱という名の弾丸は、誰にも止められない」と、今日もまた、何かを遠くに飛ばすための機械をせっせと組み立てている。