羽鳥さんは以前、都内のIT関連企業で営業職として勤務していた。しかし、ある朝の昼食時に食べた納豆の粘りに「もっと高みへ到達できるはずだ」という強い啓示を受け、社内休憩室で本格的な研究を開始したという。当初は箸を使っていたが、やがて遠心分離の原理を取り入れた高速回転マシーンを自作するまでに至った。

同僚の証言によると、羽鳥さんは会議中であっても、机の下でポケットに入れた納豆パックを隠し持ち、常に手首を小刻みに動かしていたという。そのあまりの高速振動により、会議室のテーブル全体が共鳴し、資料が震え出すという怪現象が頻発。上司が注意しても「今、大豆が分子レベルで踊り狂っているんです!」と興奮気味に反論したため、周囲を困惑させた。

事態が決定打となったのは、先週行われた重要な商談の場だった。羽鳥さんは「お客様に究極の粘りを提供することが最大のおもてなし」と信じ込み、商談相手の目の前で30分間にわたり、無言で納豆を練り続けた。室内に響く独特のネバネバ音と、次第に泡立っていく納豆の異様な光景に、商談相手は恐怖を感じて帰ってしまったという。

羽鳥さんは解雇後も、「理解されないのは天才の宿命」と淡々と語る。現在、彼は公園のベンチで通行人に無料で納豆を振る舞いながら、究極の混ぜ方を教える活動を続けている。「最終目標は1万回を超えた時、納豆が空中に浮遊することです」と語る彼の瞳には、もはや世俗の悩みなど一切映っていないようだ。

しかし、昨日記者が取材に訪れた際、彼が一番懸念していたのは「混ぜすぎて納豆が消滅した」という事実ではなく、唯一の相棒である納豆のタレを公園のハトに奪われたことだった。彼は今、ハトを追いかけながら必死に空に向かって「そのタレは熟成の極みなんだ!」と叫び続けている。