「ただの納豆が、どこまで美味しくなるかを知りたかっただけなんです」と語るのは、納豆研究家の羽田野健一さん(42)。羽田野さんは3年前から、日夜ひたすら箸を動かし続ける『究極の撹拌プロジェクト』を自宅で敢行していた。当初は100回程度で満足していたが、次第にその飽くなき探究心はエスカレートしていったという。

事件が起きたのは先週日曜日の昼下がり。羽田野さんは8万回という前人未到の領域に足を踏み入れた。箸を握る右腕は既に筋肉の限界を超えていたが、納豆の粘り気はもはや大気圏を突破するほどの強度を帯び、箸を伝う振動が彼の脳髄を直接揺らしていたと証言する。

7万9999回を超えた時、キッチンは不思議な静寂に包まれた。羽田野さんが最後の一回を振り下ろした瞬間、納豆は醤油と混ざり合い、それまで見たことのないような黄金色の発光体を形成。室内の電気がすべて消える中、器の中からは宇宙の誕生を思わせる轟音とともに、銀河系の地図らしき紋様が浮かび上がったのである。

駆けつけた近隣住民によると「窓から眩い光が漏れていて、てっきり未確認飛行物体が着陸したのかと思った」という。羽田野さん自身、その光を浴びた瞬間に『納豆の分子構造と宇宙の膨張率には相関関係がある』という真理を悟ったといい、今は少しだけ哲学的な表情で空を見上げている。

しかし、この驚異的な事態に羽田野さんは意外な苦悩を漏らす。「光り輝く納豆があまりにも神々しすぎて、どうしても食べる勇気が出ないんです」。結局、その奇跡の納豆は現在、特殊な冷凍ケースで厳重に保管されており、羽田野さんは今朝、別のパックを開けて10回だけ混ぜて食べたという。

近所のスーパーでは、このニュースの影響か、普段は売れ残りがちな納豆の棚が空っぽになるという現象が発生。人々はこぞって納豆を買い込み、それぞれの『光』を求めて必死に箸を回し続けているが、現時点での最高記録は『腕が吊る』ことだという。