大川戸さんが開発したのは『即席麺専用・瞬間冷却バックパック・クーラー』である。これは、背中に背負った小型の冷蔵庫から伸びるホースを、カップ麺の蓋の隙間に差し込み、超低温の空気を強制的に送り込むという代物だ。通常、カップ麺が食べごろになるまでには数分待つ必要があるが、大川戸さんの装置を使うと、数秒で氷点下に近い温度まで冷え込み、麺のコシを維持したまま完全に冷製麺へと変化させることができる。

「猫舌の私にとって、熱い麺は地獄の業火と同じです。そこで考えました。冷やせばいいじゃないかと」と大川戸さんは力説する。彼はこれまで、扇風機を顔の前に設置したり、氷を直接スープに投入したりと試行錯誤を繰り返してきたが、満足のいく結果は得られなかった。今回のバックパックは、出力調整ダイヤルによって「ぬるま湯」から「北極圏の海」まで、細かく温度設定が可能であるという。

検証の日、大川戸さんは駅前の広場に立ち、カップ麺にお湯を注ぐや否や、背中の機械のスイッチをオンにした。ゴォォォという激しい駆動音と共に、カップからは白い蒸気が爆発的に噴き出し、周囲の通行人は何か火災でも起きたのかと驚いて振り返った。しかし、大川戸さんは涼しい顔で、計測器を確認しながら麺をかき混ぜ続けていた。

約30秒後、大川戸さんは満足げに麺を一口すする。周囲には冷たい空気が漂い、彼が持つ麺からは霜のようなものが確認できた。その姿は、まるで冬の嵐の中に一人佇む登山家のようである。彼は自信満々に言った。「完璧です。これぞ、猫舌のための聖杯。熱さという概念を物理的に排除することに成功しました」。

しかし、この壮大な発明には一つだけ大きな誤算があった。あまりの急速冷却にスープの表面が凍りつき、麺が完全にスープと一体化してしまい、割り箸が一本も刺さらなくなったのである。結局、大川戸さんはその日、麺をすするのではなく、氷漬けになったカップ麺をハンマーで砕き、かけらを口の中に放り込むという、食事とは程遠いスタイルで昼食を終えることとなった。