都内在住の会社員、羽田野健一さん(34)は、幼少期から納豆の「究極の粘り」を追求し続けてきた探究者だ。彼が掲げる理論によれば、納豆を一定の速度と角度で混ぜ続けると、大豆タンパク質が分子レベルで共鳴し、旨味を超越した『黄金の粘着体』へと進化するという。

先週末、羽田野さんは決意を固めた。キッチンタイマーをセットし、ストップウォッチを握り締め、彼は納豆パックと対峙した。周囲が静まり返る深夜2時、ひたすらに右回りでかき混ぜる孤独な作業が開始された。1000回、2000回と回数を重ねるごとに、納豆の糸は空気を含み、まるで雲のような純白の泡へと変貌していった。

「3000回を超えたあたりで、世界が少し歪んで見えました」と羽田野さんは振り返る。彼の手元には、もはや納豆とは思えない、ツノの立った生クリームのような物体が存在していた。それは箸で持ち上げると、パック全体が重力から解放されたかのようにふわりと浮き上がり、周囲の空気が甘く香ばしい匂いで満たされたという。

そしてついに4999回、5000回目。羽田野さんが最後の一回を回しきった瞬間、パックから放たれた強烈な粘着力の光がキッチンの壁を照らし、彼自身の目には本当に「銀河の渦」のような模様が見えたと証言している。まさに納豆が宇宙の真理を語りかけてきた瞬間であった。

しかし、悲劇はその後すぐに訪れた。あまりにも完璧に仕上がったその『黄金の粘着体』を口に運ぼうとしたところ、その粘着力はあまりにも強力すぎて、パックと箸、そして羽田野さんの指先が三位一体となって完全に固定されてしまったのだ。彼はその場で動けなくなり、朝方になって自力で粘着を解くまでの数時間を、納豆と共に静かに過ごすこととなった。

現在の羽田野さんは、「次こそは、納豆とコミュニケーションを取るために、6000回に挑戦する」と、新たな研究計画を練っている最中だという。なお、当日の納豆はその後、あまりの美味しさに、動けなくなった彼の前で飼い猫が全て美味しく完食したとのことである。