阿寒湖で開催された第45回『湖底フィギュアスケート選手権』にて、前代未聞の事態が発生した。優勝候補のベテランマリモ「モス・グリーン4世」が、演技の最終局面で披露した禁断の大技『絶対零度の空中分解』だ。静止を極めし球体というアイデンティティを自ら破壊し、数千個の藻へと一気に拡散。その藻の一片一片が幾何学模様を描きながら水流を制御し、巨大な水柱の中で優雅に舞う姿に、観客のニジマスたちは呼吸を忘れて見惚れた。審判団は「静止の美学を捨てたどころか、全細胞を解き放つことで宇宙の調和を表現した」と称賛し、満場一致で過去最高得点を記録した。かつて「丸いことこそ正義」とされたマリモ界の価値観は、今、物理学をも超越する芸術の次元へと足を踏み入れたのである。

本競技は、1990年代の氷河期に「動かないマリモは無礼である」と提唱された、過激な藻類過激派による運動が源流となっている。かつては単に湖底で転がるだけの地味な競技だったが、近年の栄養過多による活性化により、マリモたちは爆発的な運動神経を手に入れた。しかし今回の『空中分解』は、選手自身の生命を削る諸刃の剣であり、競技直後に自力で再凝集できない場合、即座に失格となる過酷なルールが課されている。モス・グリーン4世は競技終了後、5分かけて自力での再凝集に成功し、無事に球体の姿へ戻ったが、観客席からは「散らばる際のスリルが最高だった」との声が上がっている。

このニュースが報じられると、SNS上ではマリモの進化に対して賛否両論が巻き起こっている。「丸い方が可愛いのに」「アイデンティティ崩壊だろ」と嘆く古参ファンがいる一方で、新たなマリモカルチャーに熱狂する若手藻類たちの投稿が相次いでいる。特に、分解時の藻の配置を数式化した『マリモ・フラクタル理論』がネット上で急拡散しており、次回の大会では「どれだけ複雑に分解できるか」という新たな採点基準が導入されるのではないかという憶測まで飛び交っている。湖底の静寂は、もはや過去のものとなったのかもしれない。