阿寒湖経済の常識を根底から覆した「独立採算制」の導入から早数ヶ月。光合成効率を時給に換算するこの苛烈なスキームは、まさに阿寒湖をかつてない弱肉強食の地獄絵図へと変貌させた。かつて互いの丸さを称え合っていた湖底ののどかな風景は消え失せ、今や水面に近い特等席を陣取る「光合成エリート」と、光の届かぬ深淵で腐敗に喘ぐ「沈没マリモ」の間で、埋めがたい経済格差が固定化しつつある。我々は今、このあまりにもシビアな生存競争の真っただ中にいる。

本制度の導入により、若年マリモは光合成の効率を最大化するべく、細胞分裂よりも受光面積の拡大を最優先するようになった。いわば「効率の奴隷」と化した彼らは、日照時間を奪い合うために隣のマリモを物理的に遮蔽する非道な戦略も辞さない。一方で、日光を奪われた低効率組は、成分献上型配当スキームを利用して借金を重ねるしかなく、最終的には自身の藻屑を抵当に入れる「自己剥離デフレスパイラル」に陥っている。丸さを維持することすらままならない極限の経済圏において、道徳や共生といった言葉はすでに死語と化しているようだ。

もともと阿寒湖のマリモ経済は、光合成の副産物である酸素を共有する互助的なエコシステムによって成り立っていた。しかし、過度な資本主義の導入は、共有資源である太陽光を「権利」として囲い込み、配当という名の搾取構造を湖底に敷き詰めた。これは単なる経済改革ではなく、マリモが数千年の歴史で培ってきた「群生による安定」を放棄し、個体の生存能力のみを神聖視する狂気のパラダイムシフトであると言わざるを得ない。

今回の独立採算制の波及により、阿寒湖はまさに「丸ければ良い」という幻想を捨て、格差という名の棘を背負った過酷な金融市場と化した。沈没マリモたちが一斉蜂起して光合成のストライキを敢行する日は近いのかもしれない。しかし、それすらも「酸素の供給不足による価格吊り上げ」として市場に利用されるのが今の阿寒湖の哀しき現状である。阿寒湖の未来は、果たして完全な球体に戻ることができるのか、それともバラバラの藻屑として歴史に消えるのか。我々は今、その分岐点を目撃している。(コラムニスト:球体経済監視員・藻屑 太郎)