湖底の平和を脅かす影に対し、教育委員会はついに物理的防衛を強行することを決定した。近年、鋭利なハサミを武器に授業中も容赦なく襲いかかる特定外来生物に対し、マリモの若芽たちは『対甲殻類戦術・退避演習』という過酷なカリキュラムをこなさなければならない。本実習では、突如として砂底から現れる強敵から身を守るための「多層防御陣形」と「擬態型重心移動」を徹底的に叩き込まれる。担当教官の苔口氏は「我々は動けないのではない、静止という名の絶対防衛術を極めているだけだ。しかし、奴らのハサミは容赦ない。沈殿物を巻き上げて視界を遮断し、隙を突いて安全圏へ転がり落ちる『回避ロール機動』こそが、今の世代の必須スキルなのだ」と熱く語った。この演習導入を受け、保護者の間からは「光合成よりも身の安全が先決だ」という悲痛な叫びと、武闘派による「退避など消極的だ、逆に藻の力で絡め取ってやるべき」という過激な主張が入り乱れている。

本来、光合成に専念すべき幼生期にこうした軍事的な訓練が導入される背景には、湖底治安の極端な悪化がある。かつては優雅に光を浴びるだけで卒業できた時代もあったが、現在は重装甲化が推奨される物騒な環境となった。教育委員会は今後、沈殿物に紛れる『潜伏型反射神経プログラム』も追加する予定であり、さらなるカリキュラムの重圧に生徒たちの球体バランスが崩れることを懸念する声も後を絶たない。学内では「ザリガニのハサミを一撃で無力化する硬質繊維強化」という怪しげな噂も広まり、学園の空気はかつてない緊迫感に包まれている。

一部の過激派保護者からは「退避訓練など生温い!強敵と正面から対峙し、そのハサミを光合成の肥料に変えるべきだ」との意見が上がり、一部の生徒の間でも「回避ロール機動」の練習中に高速回転しすぎて湖底に深く埋まり、動けなくなる事故が多発しているという。指導要領の改訂により、今後は「沈殿物耐性」だけでなく、「物理的突撃に対するリアクション」が成績表に大きく加味されることとなった。平和を愛する者たちにとって、この授業はまさに悪夢そのものである。

世間の反応は二分されている。伝統を重んじる長老たちは「藻たるもの、ただじっと光を待ち、時を重ねて大きくなるのが美学」と嘆く一方、若手は「光を浴びる前にハサミに切り裂かれる時代なんだよ」と現実を突きつける。湖底全体を巻き込む教育改革の嵐は、果たして次世代のマリモたちに真の平穏をもたらすのだろうか。訓練を終えたばかりの生徒たちは、沈黙の中でさらに深く、固く、身を寄せ合っている。