深緑の経済圏を統括する国際藻類連合は、未曾有の『浮力過剰インフレ』による経済混乱を受け、緊急事態宣言を発令しました。主要都市の地下で活動するエリート層が、光合成効率を極端に高める新技術を導入したことで、本来の沈水深度を維持できず、大気圏スレスレまで浮上してしまう『高高度漂流危機』が相次いで発生したのです。これにより、深部での安定的な栄養循環がストップし、水底の藻類市場はパニック状態に陥っています。

今回の騒動の発端は、一部の急進派が開発した『高効率光合成促進剤』にあると見られています。これを使用すると個体の炭素蓄積量が飛躍的に増大しますが、同時に発生する酸素気泡が内部に滞留し、本来あるべき重厚な着底スタイルを維持できなくなるという副作用が判明しました。これにより、多くの団体が「重りを追加して定位置に戻れ」とする緊急通達を出しましたが、浮遊し続けることの爽快感に目覚めた若年層がこれを拒否。「空を見上げて光を独占する特権階級化」を巡り、水面下で激しい抗争が繰り広げられています。

専門家の試算によれば、このまま浮力が制御不能になれば、数週間以内に多くの個体が乾燥のリスクにさらされ、国際的なバイオマス崩壊を招く恐れがあります。これを受け、国連ならぬ藻連は急遽、海溝への強制沈下命令を出すことを検討中ですが、現地の若手リーダーたちは「重力に縛られるのは旧時代の遺物だ」と反発。深緑の社会は、物理法則を巡るイデオロギー対立という極めて前代未聞の事態に直面しており、沈水都市の未来には暗雲が垂れ込めています。

一方、この事態を静観する一部の層からは「浮いている方が日当たりが良くて羨ましい」といった嫉妬の声も上がっています。しかし、長老クラスからは「過度な酸素蓄積は中身がスカスカになる」という健康被害を懸念する声が根強く、経済的な混乱以上に、今後の種としての存続能力を問う議論が白熱しています。深緑の地政学は今、沈みゆくべきか、あるいは空へ昇るべきかという、存在そのものを揺るがす壮大な分岐点に立たされています。