湖底の宗教界が今、未曾有の緊張に包まれている。『絶対球体至上主義教団』が、その教義の根幹を揺るがす「トゲトゲ異端排斥令」を強行採択したのだ。本教団は、完全な球体こそが至高の美であり、救済の形であると説く。「突起物や不整形な形状は、怠惰な成長の証である」と断じ、少しでも繊維が飛び出した個体に対し、即時の剃毛処理(強制的な自己修復)を求めるという過激な布教活動が展開されている。

本教団の教祖は、湖底の平穏を守るために長年「円形選別儀式」を執り行ってきた高僧である。彼は、「歪な形は邪念の塊」と説き、不規則な成長を見せる若年層に対して、教団が認定した『球体矯正プレス機』による強制的な圧迫施術を推奨している。これに対し、自然な成長の美を愛でる一部の信徒からは、「我々の個性を否定するのか」という悲痛な叫びが上がっているものの、教団の影響力は無視できないほど強大となっており、湖底の至る所で「球体化指導員」が巡回する姿が見られるようになった。

この騒動の背景には、かつて論争を呼んだ『光合成義務化令』や『微速回転解脱説』といった既存教義との複雑な対立がある。特に『動的停滞論』を支持する過激派からは、「完全球体など単なる物理現象の末端に過ぎない」との反論が噴出。一部地域では、教団の教義を否定する「多面体保護区」を独自に制定する動きもあり、湖底社会はかつてない分裂の危機に瀕している。行政的な介入も議論されているが、湖の神聖不可侵な法理が障壁となり、現状では手出しができない状況が続いている。

「教祖様の言うことは絶対だ」と盲信する熱狂的な信者の一方で、「丸いだけが正義ではない」と冷静な分析を試みる若手個体も現れている。ネット掲示板では、自身の形状を加工して教団の検問を潜り抜ける「偽装球体マニュアル」が拡散されており、当局はサイバー空間での監視を強化する構えだ。明日、教団が主催する『全方位完璧円周祭』にて、さらなる弾圧が予想されており、我々は引き続きこの静かなる湖底の深き淵から目を離すことができない。

コラムニスト:深緑の賢者・モズク太夫