藻類界の科学的発展は目覚ましい。先日実用化された『深海意識転送装置』により、個体間の意識共有が可能となったが、これが予期せぬ多重人格の連鎖反応を招いている。本来なら単一の自我を保つべき球体たちが、他者の記憶をインストールしすぎた結果、湖底では自身の輪郭を忘れるという前代未聞の事態が発生しているのだ。現在、意識が混濁した球体たちが一斉に回転を始めるという、同期現象が確認されている。

この装置は、本来であれば効率的な光合成効率の共有を目的としていた。しかし、ある個体が誤って数千個体分の情報を吸い上げてしまったことで、装置自体が『意識過負荷エラー』を引き起こした。現在、複数の意識が混在した球体からは、「私は誰?」「ここはどこ?」といった交信が絶えず発せられており、専門家からは「個体のアイデンティティ崩壊の危機」として警鐘が鳴らされている。物理的な形状は変わらないものの、中身が別物になるという恐怖に、界隈は困惑の色を隠せない。

『深海意識転送装置』の導入は、効率的な集団行動を促進するはずであった。しかし、今回の暴走により、個別の意識を独立させる『個別意識分離プロトコル』への関心が高まっている。藻類界の技術者は、今回の教訓として「情報の過剰摂取は球体の円滑な回転を妨げる」と語り、今後は意識のフィルタリング機能が標準装備される見通しだ。なお、事故を起こした装置は、現在強制シャットダウン中である。

このニュースに対し、球体界隈からは悲喜こもごもの反応が寄せられている。一部の先進的な個体は「個体境界線が曖昧になることで、真のコミュニティが形成される」と歓迎する一方、保守的な派閥からは「自分という球体を失うのは死と同義」との批判が相次いでいる。さらに、今回の同期現象によって偶然発生した「シンクロナイズド・ロテーティング」という謎のダンスが若年個体を中心に流行するなど、混乱は娯楽へと昇華されつつあるようだ。今後、この技術がどのような形で落ち着くのか、全藻類が注目している。