昨今の湖底を騒がせている『旋回式シンクロ・スイミング』ブームに、待ったをかける研究者が現れた。湖底の生態系において、かつてないほどの規律と秩序を重んじる「球体静止至上主義」を標榜する藻類生物学者のマリモ・ボルボ博士は、現在の流行を「深緑の尊厳を汚す浅薄な興行」と断じ、厳重に抗議する声明を発表した。博士によれば、マリモの真髄とは移動や回転ではなく、数世紀にわたる沈黙の蓄積による重厚な球体形成にあるという。

近年の観測によれば、一部の若手個体が集団で同期を取りながら回転するパフォーマンスに熱中し、本来の成長速度を犠牲にするケースが多発している。この『旋回式シンクロ・スイミング』は、一見すると華やかだが、湖底の平穏を乱し、成長の要である重心の安定を根本から破壊する行為であると博士は指摘する。同氏は、かつて行われた『緑のダダイズム前衛展』の狂乱と同様の「軽薄な運動性」が、マリモのアイデンティティを溶解させていると強く警鐘を鳴らしている。

そもそも、マリモが球体を維持するのは、潮の流れに対する物理的な防御反応であり、生存戦略の結晶である。博士の論理では、自ら進んで渦を作り出し、遠心力に身を任せる行為は「自殺的遊戯」に近いという。今後の研究では、静止状態のマリモが発する微細な振動を記録し、その静謐さがどれほど湖底の宇宙において高度な知的活動であるかを立証するプロジェクトが開始される予定である。浮ついた回転に身を投じるのではなく、根を下ろし、深淵を見つめ直すことが、現代の藻類に求められる倫理観なのだろう。

この過激な主張に対し、湖底住民からは「回転こそが生命の躍動だ」「静止などただの停滞だ」という反発の声が上がる一方で、「古き良き静寂の時代が懐かしい」といった静かな支持も広がっている。科学的な正当性と芸術的な探求心が真っ向から衝突する中、湖底の深緑の未来は、回転するか、止まるかの二択を迫られる瀬戸際に立たされている。

コラムニスト:藻の哲学探求者・円形保持郎