阿寒湖の深部にて、近年稀に見る『藻類筋肉増強計画』という奇妙なムーブメントが巻き起こっている。これまで穏やかに光合成を行い、粛々と球体を維持していた住民たちが、突如としてタンパク質摂取に目覚めたのだ。発端は、岩場に隠れていた栄養価の高い腐食泥を摂取した個体が、一時的に細胞分裂を異常加速させたことにある。これを見た若手たちは、「丸いだけがアイデンティティではない」と悟り、激しい自己変形による筋肉質なフォルムへの進化を夢見るようになった。
この計画の主導者は、数十年物の長老個体『ムキムキ・アオミドロ師範』である。彼は、湖底のわずかな水流を利用して自身の繊維を執拗に編み込み、強靭な広背筋に見える隆起を形成することに成功した。これに触発された住民たちは、連日のように水底で逆立ちや回転を繰り返し、左右非対称な突起を競い合うようになった。中には、あまりの筋トレ熱に耐えきれず、自らの中心核からひび割れを起こす個体も続出しており、長年守られてきた完全なる球体という概念が根底から覆されつつある。
元来、球体は水流で均等に回転するために進化した形態である。しかし、今回の計画によって身体が歪に発達したことで、かつてのように滑らかな転走が不可能になった。「重い、動けない、だが誇らしい」というスローガンが流行語として定着する一方で、生態系の秩序を乱す過激な変形は『藻類自治委員会』からも懸念の声が上がっている。このままでは冬の間に沈み込む場所を失う個体が続出するのではないかと、静かな湖底に不安の影が落ちている。
この異様な光景に対し、球体界隈では「最近の若いのは自分の重さに耐えきれていない」「結局、元に戻る時は寂しそう」といった冷ややかな分析が飛び交っている。一方で、一部の革新的な住民からは「進化の過程で、筋肉こそが生存の証」という過激な擁護意見も出ており、湖底における伝統保守派と急進派の溝は深まるばかりだ。今後、この筋トレブームが収束するのか、それとも新たな進化した種として定着するのか、湖畔の観測隊も固唾をのんで見守っている。
湖底の熱血筋トレブーム:『藻類筋肉増強計画』がもたらす球体の変形危機
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悲劇の始まりだ