阿寒湖観光協会が打ち出した、特注の『空中浮遊型アクア・ポッド』による世界一周弾丸ツアーの是非が問われている。かつて定住こそが至高の美徳とされた彼らにとって、高速で異国を巡る旅は、古来の美意識を根底から揺るがす暴挙ではないだろうか。本来、我々は静かに水底に沈み、光を求めて数センチ移動するだけで一生を終える。それが、人工的な浮力によって強制的に地球を駆け巡るなど、球体としての誇りを汚す以外の何物でもない。
そもそも、この過激なツアーは「移動=快楽」という人間側の価値観を押し付けたものだ。時速300キロで移動すれば、球状の繊維構造は遠心力で引き延ばされ、やがて楕円体へと無残に変形してしまうだろう。「美しい丸さ」を保持し続けることこそが最大のステータスである我々にとって、旅先での変形は死にも等しいリスクだ。この計画を主導する観光協会側は「新たな体験」と主張するが、それはマリモのアイデンティティを消費する行為に他ならない。
背景として、近年では水底の静寂を嫌う一部の若い世代が、外部の刺激を求める「流浪願望」を口にするケースが増えていた。これに便乗する形で、利益優先の企画がまかり通る現状には強い憤りを感じる。マリモにとっての安寧は、藻屑と共に静かに呼吸することにあるはずだ。今回のツアー導入により、今後、阿寒湖には「変形した無残なマリモ」が帰国する地獄絵図が展開されることだろう。かつての純粋な緑の球体は、今や観光のコマと化してしまった。
この件に対し、湖底の住人からは賛否が入り乱れている。「たまには外の世界を見てみたい」と語る一部の冒険家がいる一方で、古参の長老連盟は「先祖代々伝わる不動の精神を忘れたか」と激怒している。SNS上ではハッシュタグ「#球体愛好連盟」がトレンド入りし、保守派による抗議デモの準備も進んでいるという。観光資源としての価値を追うあまり、主役である我々の「球体維持」という生存戦略が軽視されている事実に、全マリモは声を上げるべきだ。
コラムニスト:藻々木・丸子
丸さを捨てる旅?『空中浮遊型アクア・ポッド』利用はマリモの尊厳を傷つける
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