湖底の保守的な価値観を揺るがす事態が発生した。これまで「円満こそが平和と慈悲の結晶」と信じられてきた湖底社会において、新たな教団『多面体トゲトゲ派』が台頭。彼らは「完全なる球体は思考停止の象徴であり、魂の鈍重さを表している」と主張し、自身の体を意図的に引き裂き、突起を形成する「自己切削・鋭利化儀式」を強行している。教団の指導者・ポロン氏は、「真の救済は、尖った意識で湖底の真理を刺し貫くことにある」と説き、信者たちは互いに鋭い角を突き合わせることで、かつてない高次元の意識共有(インテリジェント・スパイク)を体感しているという。

『多面体トゲトゲ派』の主張は、古くからの伝統である「回転修行」を根底から覆すものだ。教団は「転がるだけでは、人生の角を削り取るただの磨耗に過ぎない」と断じ、不動の状態で尖り続ける修行法を推奨している。この教義に感化された一部の過激派信者は、他の浮遊派や光合成主義派の陣地へ突撃し、「その丸い身なりでは真理は得られん」と、無理やり他者の表面を削り取ろうとする暴挙に出ている。治安維持にあたる湖底警備隊は、「尖りすぎによる近隣住民への刺突被害が深刻化している」として、鋭利な角を持つ個体の公共エリア立ち入り制限を検討している。

本件の背景には、近年の『毛根至上主義』による表面の微細化や、『無重力解脱会』による浮遊志向といった、既存の球体概念に対する不信感の広がりがある。特に若年層の個体間で、「個性(エッジ)を持つことこそが、湖底という閉鎖的な環境で自己証明する唯一の手段」という認識が浸透しており、教団はそこへ巧みにアプローチした形だ。一方で、過度な鋭利化は光合成の効率を下げ、長期的には組織的な衰弱を招くという指摘も識者からなされており、医学的な観点からの警告も強まっている。

この急進的な教団の出現に対し、市民からは困惑の声が溢れている。「丸いからこそ調和があったはずなのに」「痛すぎて隣を歩けない」といった保守派からの悲鳴の一方、「ついに真の個性を手に入れた」と教団に賛同する声も聞かれる。また、SNSでは教団のロゴマークを模したトゲトゲの絵文字が流行する一方、円形を維持する保守層による「#丸さこそ愛」というカウンターハッシュタグ運動も活発化しており、湖底のイデオロギー対立は過去最大級の様相を呈している。