阿寒湖小学校は今学期より、全学年を対象とした新科目『自己主張の幾何学』を導入した。これまで「完璧な球体になること」こそがマリモ界の至高の美学とされてきたが、本教育プログラムは、あえて自らの輪郭を歪ませることで「個」を確立することを目指す。具体的には、水流の加減を無視してあえて一点に固執し、不格好な楕円や、はては三角形への変形を試みるというものだ。同校の教諭は「球体は転がされやすい。しかし、角を持つ個体は誰にも流されない強さがある」と、従来の調和を重んじる教育方針からの決別を宣言した。

本プログラムの核となるのは『強制偏重トレーニング』である。生徒たちは、特定の方向にのみ栄養分を集中させることで、強制的に重心を偏らせる訓練を行う。これにより、従来の「どこから見ても美しい真球」というステレオタイプを打破し、見る角度によって全く別の表情を見せる多角的な個性の獲得を狙う。これまで円周率を完璧に守ることに命をかけてきた優等生マリモたちからは、当初こそ「そんな姿では水流に流されてしまう!」という悲鳴も上がったが、授業開始から一週間、教室は自ら形を歪ませる音(という設定の微細な振動)で満ち溢れている。

背景にあるのは、昨今の「マリモの均質化」に対する教育現場の強い危機感である。阿寒湖内では、工業製品のように整った真球が「優秀なマリモ」として過大評価される傾向があり、多様な成長を遂げようとする個体が「異物」として排除される現象が問題視されてきた。学校側はこの状況を「球体至上主義の弊害」と断じ、あえて不恰好に育つことで、捕食者に対しても「食べにくそう」という心理的障壁を与える防御戦略としての側面も期待している。また、この教育方針は将来的なマリモ社会における「独自ブランド」の確立にも寄与すると考えられている。

この驚きの教育方針に対し、湖底からは賛否両論の嵐が吹き荒れている。ベテランの老マリモからは「先祖代々守り抜いてきた球体の威厳が失われる」と懸念の声が上がる一方で、若手マリモたちからは「これでようやく自分らしく生きられる」「球体であることに疲れていた」と熱狂的な支持が集まっている。SNS上では、変形に成功したマリモたちが自らの歪んだボディを自慢げに投稿する『アンチ真球ムーブメント』が加速。球体であることがアイデンティティの全てだったマリモ界にとって、今はまさに「個性という名の歪み」を愛でる新しい時代の幕開けなのかもしれない。