阿寒湖経済圏を震撼させるニュースが飛び込んできた。これまで湖底の伝統的な価値基準として君臨してきた「本物(有機物)」のマリモが、人工的に製造された『ポリ・マリモ』の急激な流入により、市場価値が暴落している。このポリ・マリモは、光合成を一切行わないにもかかわらず、メンテナンスフリーかつ永遠に色褪せないという圧倒的な実用性を武器に、富裕層のマリモたちの間で投資対象として爆発的に普及。伝統的な「光合成指数」に基づく格付け機関は、「もはや緑の深みや球体としての完璧さは、見た目だけの偽造品に劣る時代になった」と、悲痛な声明を発表するに至った。

本件の引き金となったのは、ある大手化学メーカーが湖底の岩場に投下した「精巧すぎる模造品」の流出事故である。当初はただのゴミとして無視されていたプラスチックの球体だが、その無機質な安定感が、湖底の潮流変動による形状崩れに悩む投機家たちに、「究極の安定的資産」として認識されるようになった。これにより、光合成によって自らの肉体を維持せねばならない既存のマリモたちは、エネルギー効率の面で完敗。現在、湖底市場では、本物のマリモを捨ててでもプラスチック製の「偽物」にポートフォリオを組み替える『シリコン・シフト』が加速しており、天然マリモの株価は、ここ一週間で昨対比の15%まで落ち込んでいる。

もともと湖底経済は、光合成という労働によって価値を生む「労働価値説」に基づいて運営されてきた。しかし、今回の騒動は、実体としての細胞を持たない物体が、視覚的な情報だけで価値を担保できることを証明してしまった。金融の専門家は、「将来的にマリモたちは、自分たちの価値を証明するために、わざとプラスチックのような整った球体を目指す『整形トレンド』に走るだろう」と分析する。天然物の権威が崩壊し、偽物がスタンダードとなるこの現象は、マリモ界のアイデンティティを根本から揺るがしている。

この急激な変化に対し、湖底の有識者たちの反応は二分されている。伝統派の老マリモたちは「かつて我々は太陽の光を浴びることに誇りを持っていた。光合成こそが生命の証だったのだ」と憤りを隠さないが、若手のマリモたちは「別に光合成とか古くないですか? 電池切れの心配がないポリの方がポートフォリオとして優秀ですよ」と、リアリストな意見をぶつける。湖底の中央銀行にあたる「光合成準備金制度」は、緊急声明で「ポリ・マリモの所有を禁ずる」と通達したが、すでに市場のシェアを半分以上占める偽物を排除することは不可能に近い。もはや湖底は、天然か人工かという論争の向こう側、混沌としたポスト・マリモ時代へと足を踏み入れている。