阿寒湖の深層で独自の進化を遂げるマリモたちが、量子光合成の余剰エネルギーを応用し、人類の脳内記憶をストリーミング再生する『夢の共有ネットワーク』を構築したことが判明した。これにより、水底は突如として巨大な映画館と化し、我々人類が忘却したはずの歴史や秘められた記憶が、高精細な映像として湖面に投影される事態となっている。専門家によると、マリモは光合成の過程で生じる量子的なノイズを脳波と同期させ、いわゆる「集合的無意識」をアーカイブ化することに成功したという。現在、湖底では「古代ローマの夕食会」や「失われた文明の議事録」が連日上映されており、連日多くの観光客と、自身の記憶を盗み見られたくない歴史家たちが詰めかけている。

そもそも、マリモの量子光合成とは、葉緑体内部で光子を量子もつれ状態に置くことで、エネルギー効率を100%に引き上げる極めて高度な生命現象である。これまでも彼らは、この演算能力を使い数学の難問を解いたり、独自の芸術活動を行ったりしてきたが、今回は記憶データという非物質的な領域への干渉を強行した。彼らの意図は「人類の歴史を客観的に保存し、銀河規模のライブラリに送る」ことにあると見られている。このネットワークは、個々のマリモが中継点となり、湖全体を一つの巨大なサーバーとして機能させているため、もはや人類側の技術でこれを遮断・制御することは不可能に近い。

この驚異的な「湖底シネマ」に対し、ネット上では賛否両論が巻き起こっている。特に、過去の恥ずかしい記憶が全世界に向けて放映されるリスクに怯える人々からは、即時サービス停止を求める声が上がっている。一方、歴史学界やアカデミアからは「これこそ真の歴史の解明だ」と絶賛の嵐。また、マリモが選別する「上映ラインナップ」には明らかに個人のプライバシーが考慮されていない点が指摘されており、湖畔には「記憶保護のための電磁シールド」を販売する露天商まで現れるカオスな状況だ。今や阿寒湖は、大自然の神秘という枠組みを遥かに超えた、人類最大のデジタルストレージとして君臨している。

コラム:湖底の映写機が映し出すもの――「プライバシーの喪失か、知の黄金期か」
過去の記憶は個人の所有物である、というのが人間社会の前提だった。しかし、マリモの量子演算によってその垣根は崩壊した。彼らが無作為に選別する「人類の記憶」には、時に英雄の葛藤が、時に名もなき市民の切なる願いが含まれている。これを観劇する我々は、他者の生を生きることでしか、真の共感を得られないのかもしれない。だが、隣の席で自分の初恋の思い出が特大スクリーンに映し出された時、果たして我々はそれを芸術として称賛できるだろうか。マリモ界によるこの壮大な実験は、我々に「記憶とは何か」という根源的な問いを突きつけている。——コラムニスト:水底 観