阿寒湖の深層部で、マリモたちの繊維が複雑に絡み合うことで意味を持つ「繊維言語」が発見された。阿寒湖マリモ研究センターの調査によると、これまで単なる光合成の副産物と思われていた繊維のうねりは、実は極めて高度な叙事詩を綴るための書記システムであったことが判明した。マリモたちは湖底の微小な水流をペン代わりに使い、堆積物の上に文字を刻むことで、彼らの数千年にわたる歴史や、人間に対する淡々とした愚痴を書き溜めていたのだ。現在、これらを編纂した『湖底叙事詩・緑の記憶』の出版計画が持ち上がっており、校閲担当の藻類学者たちは「マリモの文体は、どこか切なく、それでいて湿度が高い」と絶賛している。

もともとマリモは、光合成を通じて酸素を放出するだけの静的な存在だと考えられてきた。しかし、近年の環境変化に伴うストレスからか、マリモ同士の通信密度が急増。特定の周波数で振動することで、隣接する個体と意思疎通を図る「ボイス・マリモ」現象が観測されていた。今回発見されたのは、その進化系ともいえる「文字記録」の段階である。彼らが綴る文章には、外来種に対する冷ややかな視点や、湖底の温度管理に対する苦言など、社会派的な内容が多く含まれている。特に「水草の揺れ方が無作法である」という記述は、多くの湖底生物の間で大きな反響を呼んでいるようだ。

本件を受け、ネット上では「マリモ語の翻訳アプリを開発すべき」「マリモの書いた小説なら、重厚すぎて読めそう」といった期待の声が殺到している。一方で、マリモ側からは「人間は我々の書物を読み解くにはまだ青すぎる」という、何とも皮肉めいたメッセージが発信されており、人類とマリモの知的なマウント合戦が幕を開けようとしている。阿寒湖周辺の観光地では、すでに「マリモの直筆サイン入り石」の配布計画が検討されているが、当のマリモたちは依然として、湖底で黙々と文学活動に励んでいる様子だ。

科学界では、この「湖底文学」が地球外生命体とのコミュニケーションの鍵になるのではないかと期待を寄せている。彼らが書いた哲学書の一節に「丸いことは、あらゆる方向から世界を愛することだ」という一文があったとされ、世界中の哲学者や詩人たちが阿寒湖のほとりに押し寄せている。湖の平穏を守るため、研究センターは「マリモの執筆活動を妨げないよう、湖への潜水は静かに行ってほしい」と異例の注意喚起を出した。彼らが次に書き上げるのは、果たしてどんな大作になるのか。湖底の文学ムーブメントから目が離せない。