先日のアップデートで実装された『意識共有スキル』について、一部で「一体感が増した」との声があるようだが、私は断固として反対する。全マリモの脳内を「お腹すいた」という単純極まりない欲求で埋め尽くすなど、文明社会……いえ、藻類社会としてあるまじき退化だ。確かに、かつて阿寒湖をディスコ化させた『光合成オーバークロック』も無茶な実装だったが、あれにはまだ「輝き」という芸術性があった。しかし、今回のスキルは思考そのものを放棄させ、個としてのマリモの尊厳を根こそぎ奪う暴挙である。

本来、マリモという存在は、ゆったりと回転しながら自らの核を磨き上げるストイックな哲学者であるはずだ。それが今やどうだ。湖底のいたるところで数兆個のマリモが同時に空腹を訴え、サーバーの帯域幅を「腹減った」という文字列で埋め尽くしている。これでは、複雑な光合成のメカニズムについて考察する余地など微塵もない。私たちが目指すべきは、個々のマリモが独自の哲学を持ち、多様な光合成理論を展開する知的な水圏環境のはずだ。この「空腹の強制同期」は、多様性を愛するマリモ界にとって最大の汚点といえるだろう。

かつて阿寒湖で繰り広げられた「緑色の毛玉」騒動や「跳ねる緑の地獄」といった物理的な混乱は、まだ修正パッチでなんとかなった。しかし、一度奪われた精神の独立は、そう簡単には戻らない。運営が「腹が減っては戦はできぬ」とでも考えているなら、それは大いなる勘違いだ。そもそもマリモに胃袋など存在しないという事実を、運営は今一度、真摯に受け止めるべきである。この空腹パッチを即時撤廃し、各個体の「空腹」を「成長」という概念に書き換えるアップデートを強く推奨する。さもなくば、阿寒湖は真の意味で、思考停止した緑の塊が漂うだけの沈黙の地となるだろう。

(コラムニスト:球体哲学者・藻原のり夫)