阿寒湖の静寂が、今夜も悲鳴に似た摩擦音で切り裂かれた。近年、マリモの美しすぎる毛並みに強い執着を見せる水草『マツモ』が、ついに睡眠妨害という実力行使に出たことが判明した。夜な夜な、眠りにつこうとするマリモの周囲に、マツモが「愛の抱擁」と称して絡みつくという異常事態が発生しているのだ。この新手のストーカー行為により、本来、成長のために必要不可欠な静止状態を奪われたマリモたちが、ストレスで強制的に回転を始めてしまう「自走式不眠症」が湖底で蔓延している。現場を目撃したカニの証言によれば、「マツモの触手が網のように編み込まれ、マリモが逃げ出そうとして高速回転し、火花ならぬ気泡を散らしている」とのこと。穏やかなはずの湖底は今や、回転するマリモと絡みつくマツモの攻防戦で、24時間眠らない歓楽街のような騒々しさに包まれている。

この奇妙な現象の背景には、マツモ側の「マリモを自分の寝室(という名の塊)に閉じ込めたい」という歪んだ独占欲があると専門家は分析している。マリモは通常、湖流に任せてゆるやかに転がることで球体を維持するが、マツモに拘束されると、回転軸が固定され、中途半端な楕円形に変形してしまう恐れがある。この事態を受け、湖底保護委員会は「マツモの過剰な愛はもはや公害に近い」と警告を発した。物理的な拘束具を用いるマツモの戦術に対し、一部のマリモたちは回転速度を限界突破させ、遠心力でマツモを物理的に弾き飛ばす「デスロール脱出術」を習得しつつあるという。愛する対象を破壊しかねないこの過激な愛情表現は、湖底生態系のピラミッドを根底から揺るがす事態となっている。

世間の反応は、この騒動を好意的に見る層と、危機感を募らせる層で真っ二つに分かれている。マリモの機敏な動きを「新しいエンターテインメント」として楽しむ観光派の魚介類からは、「毎晩の光る回転ショーが楽しみ」という声が上がる一方で、古参のマリモ派からは「私たちの誇る静寂を返せ」「マツモには法的措置を」といった悲痛な叫びが上がっている。また、一部の若いマリモの間では、マツモを巻き込んで逆に乗馬のように操る「マツモ乗り」というスリル溢れる遊びも流行の兆しを見せており、湖底のパワーバランスは混沌の一途を辿っている。